傀儡の恋

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 停戦条約の条件を話し合っている場であの男がラクス・クラインとカガリ・ユラ・アスハにどれだけしめられたのか、自分は知らない。もちろん、キラもだ。
 ただかなり精神的にいたぶられたのではないかというのだけは同席させられたアスランの表情から推測できた。
「……行かなくてすんで幸い、と言うべきなのかね」
 ぐったりとしている彼の後頭部を見つめながらラウはそう言う。
「本人達は自業自得だが、同席させられた他のメンバーはきついだろうな」
 ちゃっかりと記憶を取り戻していたムウがこう言ってくる。
「そうだな。だが、そのくらいでどうこうなるようならこれから使い物にならないだろう」
 バルトフェルドがさらりととんでもない発言を投げ込んでくる。
「どういうことだ?」
 意味がわからない、とムウが聞き返す。
「このままであればあれは二人の護衛という名の雑用係決定だろうからね。他に付き合わされているものも同様だろう。ザフトからはイザーク・ジュールとディアッカ・エルスマンだったね」
 ラウが笑いながらそう言った。
「これから心置きなくこき使えるメンバーと言うことか」
 誰がとは言わなくてもその場にいたメンバーには十分伝わるだろう。
 アスランが『これ以上は聞きたくない』と言うように耳をふさいでいる。
「いいのかな?」
 自分でなくて、とキラは首をかしげた。
「あの二人がそう判断したのだからかまわないだろう。何よりも、君には休息が必要だよ、キラ」
 顔色が悪い。そう付け加えるとラウはそっと彼の頬をなでる。
「そうそう。お前はゆっくり休んでいろ。その分、あいつらが頑張るって」
 ムウもそう言って笑う。
「そうだな。もう少し太らんとラクス達も安心できないだろう」
 それも無理はないだろう。今のキラはあの二人をはじめとする女性陣が女装させて遊ぶくらい細いのだ。
 本人達は『それがいやならばもっと太れ』と言いたいのだろう。だが、それが逆効果になっていると思わないのだろうかと疑問になる。周囲から見れば遊んでいるようにしか思えないのだ。
「それに、お前の出番は今じゃない。そういうことは専門の教育を受けてきた人間に丸投げしておけ」
 バルトフェルドがそう言って締めくくる。
「確かに。彼等はあれでも評議会議員の息子だ。それなりの教育は受けているはずだからね」
 ラクスの方が一枚以上上手だが、とラウもうなずく。
「君は一般家庭で育ったんだ。できなくて当然だろう」
 それよりも、と続けた。
「カリダさん達に連絡は入れたのかな?」
「メールはしました。あちらもまだ混乱しているようで回線がつながらないので、直接は無理でしたけど」
 ラウの問いかけにキラはこう言い返す。
「でも、その方が良かったかもしれません。今の僕だと心配しかかけない」
 視線を落とすと彼はこう続ける。
「わかっているなら、まずは余計なことをしないで寝ろ。何なら、そいつに添寝でもしてもらえ」
 本当にどうしてこの男は茶化すようなセリフを口にしてくれるのか。
「あぁ、それがいいかもな」
 さらにムウが楽しそうにうなずいてみせる。
「三年前も添寝してやったときは素直に寝ていたもんな、お前」
 だが、別の意味で爆弾だった。
「……三年前というと、前の戦いの時かな?」
「あぁ。こいつ、地球に降りた後、しばらく不眠症気味だったんでな」
 その声が耳に届いたのか。アスランが腕に顔を埋めている。いや、姿を見せたイザークもだ。
「あの頃は友人達とも距離ができていたようだしな。仕方がなかったんだろうが……俺もいっぱいいっぱいでフォローが後手に回ったし」
「……あぁ、あの頃か」
 バルトフェルドも何かを察したのか。うなずいている。
「そういうことだから、任せた」
 今はさすがに添寝はなぁ、と笑いながらムウがラウの肩をたたいた。
「……とりあえず仕事はさせないように見張っているか」
 添寝はキラの希望次第だな、とラウはつぶやく。
 それが悪かったのか。何故かその日から二人が同じ部屋に放り込まれることになった。

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最遊釈厄伝