傀儡の恋

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 メサイアに致命的な損傷を与えたのはストライクフリーダムだった。
「まるで沈没船から逃げ出すネズミだね」
 それからすぐにメサイアからは次々と艦艇が脱出していく。おそらく彼等はギルバートを見限ったのだろう。あるいは、あの男が自分から脱出を命じたのか。
「……どちらにしろ、あの男はまだ中にいるだろうね」
 そう言う性格だ、とラウはつぶやく。
「キラは直接あれと話をしようとするだろうし……私も行くか」
 今ひとつ気は進まないが、と付け加える。自分もやはり軍人だったのか。戦場にいる方が性に合っている。
 それでもキラを放っておく訳にはいかない。
「あの男の言葉に惑わされるとは思わないが」
 逆にあの男の方が圧倒されるのではないか。
 ある意味、キラの覚悟はあの男の比ではない。だが、あの男の言葉でキラが傷つく可能性は否定できないのだ。
 もっとも、そうなればそうなったでラクス達が本性を現すだけだろう。
 しかし、こちらにまで矛先が向けられるのは困る。アスランの置かれている状況を目の当たりにしているだけになおさらだ。
「女性があんなに恐ろしい存在だとは、行動を共にするまで知らなかったな」
 そのアスランはインパルスとデスティニーを相手にしている。合流するのは難しいだろう。
 バルトフェルドとネオはエターナルとアークエンジェルを守るのに精一杯のようだ。
 何よりも、いつ切り札を切るか。その判断は自分がした方がいいだろう。
「あの子には荷が重いだろうしね」
 苦笑と共にそうつぶやく。
 やはり自分が動くしかない。
 そう判断をしてラウはキラの後を追ってメサイアへと向かう。自分の後を追ってくる存在に気付いてはいたが、あえて無視をする。
「……彼も自分の目で結末を見るべきだろうね」
 そしてどうするのか決めるしかない。
 その機会を与えることが、自分ができるせめてものことだ。ラウはそう考えていた。

 メサイアの中は予想以上に荒れていた。
「……さて。司令室はどこかな」
 これとよく似た開発中のデーターを以前見たことがある。それがそのまま流用されているのであればここからフロアを十階ほど上がった場所にあるはずだ。
「逃げ出した者達がいる以上、エレベーターは生きているだろうね」
 そう考えながらキャットウォークを進んでいく。そうすればすぐにエレベーターへとたどり着いた。
 だが、ラウは生きているそれをあえて通り過ぎる。
 ここにあるそれで司令室まで行けないのではないか。そう考えたのだ。
 万が一、ここに敵が乗り込んできた場合、まっ先に使うのは先ほどのエレベーターのはず。それで攻め込まれては意味がない。それよりは多少不便でも目立たないところに設置した方がいい。
 自分でもすぐに思いつくのだ。設計関係者が思いつかないはずがない。
 それらしいものを探しながら進んでいけば、目立たないところにエレベーターの入り口を見つけた。おそらくこれだろうと迷わずに進む。
 中に入ってコンソールを確認すれば、予想通り司令室がある階への直通だった。
「キラもこれを使ってくれているといいのだがね」
 彼の場合、おそらく手前にある方を使ったのだろう。表示が上の階のものになっていたところからそう判断をする。
「だが、あちらを使っているなら私が先に上に行けるかもしれないね」
 その方が色々と都合がいいのだが。そう思いながら上昇ボタンを押す。しかし、すぐにエラー表示が返ってきた。
「パスワードを入力しなければいけないのか」
 ラウは眉根を寄せる。
「あの男が使いそうなものはいくつか覚えているが……さて、使えるかな」
 どれか一つでもヒットすればいい。
 そう考えて思いついたものを次々と入力していく。しかし、最終的にヒットしたそれにラウはあきれたくなった。
「まさか、私の誕生日だったとはね」
 何を考えているのか。そうつぶやくと同時にドアが閉まる。そして、エレベーターはゆっくりと上昇していった。

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最遊釈厄伝