傀儡の恋

　　93　　

　ミーアからのメールが届いたのはそれからすぐのことだった。
「どうするの？」
　キラはその場にいる者達にそう問いかける。
「できれば、助けたい」
　こう言ったのはアスランだ。
「甘いかもしれない。それでも、彼女の存在が何かの役に立つかもしれないし」
　これはあくまでも後付けの理由だろう。
「……アスラン一人で行ってこい、とは言えないしな」
　バルトフェルドがそう言って頭をかく。
「わたくしはミーアさんとお話をしてみたいと思いますわ」
　不意にラクスがそう告げた。
「ラクス？」
　それは誰も予想していなかったセリフだったからか。ブリッジないの視線が彼女に集まる。
「理由はありません。ただ、お話をしたいと思っただけです」
　ラクスはそう言って微笑む。
　間違いなく彼女の中にはちゃんとした理由があるのだろう。しかし、それを口にする気はないと言うことか。
「ラクスがそう言うなら、仕方がないね」
　それでもこのメンバーの中で彼女の言葉は重い。
「不本意だがね」
　しかし、ミーアの誘いが『罠ではない』と言う言い切れないのだ。それを考えればうかつな行動は避けてほしいというのも一つの意見ではある。
　だが、ラクスは決して自分の意見を曲げないだろう。
「バックアップをしっかりとしておけばいいか」
　真っ先に折れたのはバルトフェルドだった。
「そうだな。すぐに駆けつけられる場所に機体ごと待機していればいいだろうな」
　ネオも苦笑と共に告げる。
「その間はアスランが責任を持って対処してくれるだろう。ラクスのことはキラに任せておけばいい」
　言い出した人間が責任を持てよ、とバルトフェルドが笑う。
「……はい……」
　アスランが予想以上の重責に頬を引きつらせながらもうなずいてみせる。
「キラは無理をするな。お前の銃の腕前は『味方を撃たなければいい』レベルだからな」
　それは否定できない事実だからか。キラは視線をさまよわせるだけだ。
「バックアップはラウ君に頼みましょう。ネオさんにはこちらの警護を」
　ラミアス艦長が結論を出す。
「どうせならミリィも行こう。少なくとも買い物ができるよ」
　何かを思いついたかのようにキラが友人の名を呼んだ。
「そうね。色々と足りなくなっているものあるし、買い出しもいいかもしれないわ」
「なら、護衛に誰か連れていけばいいわね」
　護衛が荷物持ちと聞こえたのは自分だけではないだろう。ラウはそう考えて苦笑を浮かべた。

　結果的にミーアとの話し合いはできなかった。本人が『話し合いたい』と思っても周囲がそれを許さなかったのだ。さすがはあの男の腹心と言うべきだろう。
　彼女を排斥し、なおかつミーアの身柄を確保できただけでもいいのではないか。
　もっとも『誰も無傷で』とは行かなかった。
　ラクスをかばったミーアが重体だ。それでも生きているだけましなのではないか。
「お話はけがが治ってからでもできますもの」
　ラクスはそう言って微笑む。
「生きてさえいれば何とでもなりますわ」
　その言葉に誰もがうなずく。
「でも、今回のことはあちらに知られたよね？」
　キラがつぶやくようにそう告げる。
「だろうな」
「ならば、次が最後の戦いになりますね」
　プラント──デュランダルは全力で自分たちをたたきつぶしに来るだろう。キラはそう言った。
「そうだとしても、あきらめるわけにはいきません」
　あちらが全力で来るなら、こちらも全力で受けて立つまでのことだろう。
「その前に話し合いができればいいのですが……」
「何。たたきのめしてからでも十分だな」
　キラの言葉にバルトフェルドが言葉を返す。彼らしい言葉にラウはあきれたように肩をすくめて見せた。