傀儡の恋
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セイランはブルーコスモスの盟主ジブリールとその部下達を保護していたようだ。それを口実にザフトが襲撃をしていた。
ユウナでは対処できなかったのだろう。あっさりとカガリに実権を譲り渡していた。あるいは、後で取り戻せると思っていたのだろうか。
もっとも、それをいいことにカガリがさっさと彼を反逆罪で拘束していたが。
問題はザフトのMSの多さだ。
「……ストライクでどこまで持ちこたえられるかな?」
ザフトにしてみればストライクもそれなりに警戒対象ではある。だが、乗り込んでいるのがキラだとしてもさほど威圧感を与えられないのは事実だろう。ストライクは一世代前の機体だという認識があるのだ。
もっとも、とラウは心の中でつぶやく。
機体の性能だけが強さを決めるわけではない。たとえ旧式の機体でも乗り込んでいるパイロットの技量が上ならば十分勝てるのだ。
「それでも決定打には欠けるだろうね」
アスランにしてもM−1アストレイだ。使い慣れない機体でどこまで動けるか。
それでも、手持ちのカードでしのぐしかない。
「あちらの指揮官が有能であることを祈るか」
カガリが戻ってきたからだろうか。
いきなりオーブ軍の士気が上がった。先ほどまでと同様の対応をしていればお互いの損害が大きくなる。
その前に退いてくれればいいのだが、とつぶやく。
もっとも、現状では難しいだろう。
「……さて、どうするかな」
一発逆転は難しい。かといって、徐々に削ろうにも、兵力差を考えれば無理だと判断できる。
もっとも、現状でも硬直状態が続くだけだろうが。
逆に言えば、お互い、何かあれば即座に動くだろう。
それがこちらの有利に働くことならばいいのだが。そう考えたときだ。
『ラウ!』
スピーカーからカガリの声が飛んでくる。
「何か?」
『キラのフォローを頼む……ったく、ラクスもタイミングを考えろ』
後半は自分に聞かせるつもりではなく無意識に出たセリフだろう。だが、それで状況が推測できた。
「そういえば、宇宙にファクトリーを持っていると言っていたね、彼女たちは」
そちらで何かを開発したのだろう。おそらくはキラ専用の機体ではないか。
少しでも早く彼に届けようとしたのだろうが、確かにタイミングが悪い。それでも、それが契機になるのであればかまわないのではないか。
「了解した」
そう判断をしてこう告げる。
『頼む』
カガリの言葉を合図にラウはストライクへと己の機体を近づけていく。
「キラ」
『すみません、ラウさん。このタイミングだと攻撃が集中するかもしれません』
「そのあたりはあの男がなにか考えているだろう」
その程度にはバルトフェルドを信用している。
「あえてこのタイミングで連絡を入れてきたのだ。今回の状況をひっくり返せるものなのだろう」
それよりも急いだ方がいい。ラウはそう続けた。
『わかりました。カガリ、お願い』
『了解した。一斉射撃を』
おそらく他の機体も整備のために後退させるタイミングだったのだろう。煙幕代わりの段幕がザフトとオーブ軍を分断する。
そのタイミングでストライクとアストレイが同時に移動を開始した。
「目的地は?」
『ラクスからの連絡ではここです』
ラウの問いかけにキラは即座にこう言い返してくる。
『問題は本人が来るかどうかですが……』
「……戻ってくるだろうね、彼女なら」
今、このときでなければ意味がない。そう判断したはずだ。
「カガリの手助けもするつもりなのだろうが……やはりタイミングが悪いね」
それとも、それすらも彼女の狙いなのだろうか。ついついそんなことを考えてしまうラウだった。