傀儡の恋
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医務室からもたらされた情報にブリッジは重苦しい空気に包まれる。
「まさか本人だとは、ね」
ラウはため息交じりにそうつぶやく。
「私はてっきり、私と同じ存在だとばかり思っていたのだが」
うかつなことは言わない方がいい。そう思いながらも彼は言葉を重ねる。
「……あれだけの傷だ。マインドコントロールをかけるのも簡単だったのだろう」
カガリがそう言う。
「そうね……生きていたこと自体が奇跡みたいなものだわ」
ラミアスが複雑な表情で眠っている相手を見つめる。
「ラミアス艦長?」
いったいなぜ、彼女がそのような表情をするのか。キラ達とは違った思い入れがあるように感じられる。
「……マリューさんとムウさんは付き合っていたのよ」
隣にいたミリアリアがそっとラウに教えてくれた。
「そうですか」
彼等の年齢を考えればあり得ないことではない。ましてあの状況だ。自分を支えてくれる存在を欲したとしてもおかしくはない。
それに、とラウは心の中で付け加える。
二人の考え方はよく似ているのだろう。そういう相手であれば二人で進んでいくことも苦ではないはずだ。
「どちらにしろ、相手が目覚めてからだ」
カガリがきっぱりと言い切る。
「それまでは監視対象だ」
彼が地球軍の士官であることは事実だから、と彼女は言葉を重ねた。
「カガリ」
「フラガがどうやって生き延びたのか、この三年間、地球軍でどのような立場にいたのか。私たちは何も知らない。そうだろう?」
三年は長い。カガリの言葉に誰もがうなずく。
「不本意かもしれない。だが、皆の安全のためだ」
内心、複雑な思いを抱いているのだろう。それでも冷静に判断を下せるようになっているのは、街がなく彼女が成長をしているからだ。
「そうだね……仕方がないよね」
キラも小さなため息と共にうなずく。
「確かに。間違いなくフラガさんなんだし」
ミリアリアもそう言ってため息をついた。
「クルーには徹底させましょう」
一番複雑な思いを抱いているラミアスが口を開く。
「でも、ここにバルトフェルド隊長がいらっしゃらなくて良かったわ。彼ならば実力行使に出そうだもの」
いろいろな意味で、と彼女は続けた。
「あぁ。あの人ならばやるだろうな、間違いなく」
苦笑と共にノイマンが口を挟んでくる。それに小さな笑いが漏れた。
同時に暗くなりかけていたブリッジの空気が入れ替わる。指揮官の精神状態が部下の士気に関わってくる以上、これはいい傾向だ。
三年前もこうだったならば、自分たちが勝てなかったのもわかる。
同時に、だからこそキラがこうしていられたのだろう。そうも考えていた。
しかし、彼に記憶がないとは思わなかった。
つまり地球軍にとって必要だったのはあの男の経験ではなく身体能力だったと言うことか。
それともいつでもすれられる駒がほしかったと言うことなのかもしれない。
「一番考えられるのは、新しく教育するのが面倒だったと言うことだろうな」
記憶はなくても訓練して身につけた身体能力は残っている。そして、基本的な性格は消しきれなかったのではないか。
「まぁ、キラ達に危害を加えないうちは傍観しておくか」
それよりもあちらがどう出るか。その方が重要だろう。
ザフトが発表した映像からはフリーダムの存在が消されていた。それが何を意味するのか、わからないはずがない。
「おそらく、プラントは本格的にキラ達を排除しようとしてくる。その時に、私は彼等を守れるだろうか」
その答えはまだ見つからない。それでも動かなければいけないだろう。ラウはそう考えていた。