傀儡の恋
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ギルバート・デュランダルと言う男が人の心をどうやって操っているのかもだ。
事実、プラントにはあの男の意をくんで動く《ラクス・クライン》がいる。彼女の言動があの男に操られたものだとしても、人々は熱狂し受け入れていく。
議長の認める《ラクス・クライン》だから、偽物だと誰も思っていないのだ。
そして、 アスラン・ザラという人間が流されやすい性格だと言うことは知っていた。
しかし、ここまであっさりと流されている様子を見ると、アスランという男が馬鹿だとしか思えない。
「きれい事を言うな! お前の手だって、既に何人もの命を奪っているんだぞ」
ザフトにいる他の誰かがこの言葉を口にするのは当然の権利だ。しかし、彼だけは口に出していけないセリフだろう。
「アスラン……」
キラが呆然とアスランを見つめている。
「……お前」
逆にカガリは今にも殴りかかりそうだ。
「元々はお前らが民間人を巻き込んだのが原因だろうが」
それを必至に押しとどめながら彼女は言葉を吐き出す。
「それこそ、オーブ首脳陣の判断のせいだろう? 早くオーブに戻ってあの同盟をなんとかするんだな」
売り言葉に買い言葉というのか。アスランはきつい口調でそう言い返す。
「カガリさんが帰ったらそれこそ二度と同盟は破棄されませんよ」
これ以上はキラの精神状態がまずい。そう判断をしてラウは言葉を投げつける。
「あちらに必要なのはカガリさんの血を引く子どもだけですからね。本人の意思がなくてもかまわないと考えているでしょう」
むしろ思考がない方がいいと考えているのではないか。そう言いながらラウはキラとアスランの間に割って入る。
「お前は……」
「ジャンク屋ギルド経由で彼等のフォローを依頼された人間ですが? マルキオ様の指示でここにいます」
それが何か? と言外に聞き返す。
「……前の時と説明が違うな」
「それもマルキオ様の指示でしたので」
この言葉にアスランは言い返す言葉が見つからないのだろう。悔しげに唇をかんでいる。
「あなた方の見極めをするように、と言われていたのですが、私の判断は間違っていなかったようですね」
今頃、この状況に聞き耳を立てているバルトフェルドは爆笑しているかもしれない。だが、それはどうでもいいことだ。口裏を合わせる必要がないだけましというものだろう。自分にそう言い聞かせる。
「どうやら、あなたは自分が決めた枠の中でしかものを考えられないようだ」
他人がそれに合わせるのが当然だと言いたいのだろうか、とラウは首をかしげて見せた。
「こちら側の事情も知ろうとせずに自分の主張だけを押しつける。最低だとは思わないかね?」
そのままこう問いかける。
「お前に何がわかる!」
「少なくとも、君が彼等の敵だと言うことは理解できたが」
そう言いきった。
「俺は!」
「オーブの事情も知らずに敵地に送り込もうとしたのに?」
アスランの言葉を遮るとラウはそう問いかける。
「真っ先に逃げ出した人間が何を言っているのか」
さらにこう続けた。
「逃げてなどいない!」
「では、なぜプラントに行ったのかな? 最後まであらがいもせずに」
オーブでできることも多かったはずだ。しかし、他人からの視線を気にして逃げ出したのはアスランではないか。
「立場のない俺に何ができたと言うんだ!」
「……影から支えることはできただろう? あの男のようにね」
それをしなかった理由は簡単に想像がつく。しかし、それを教えてやるほどラウは優しくない。
「二人は私が守る。君はさっさと戻るのだね。できれば、二度と逃げ出さないようにと願うよ」
いや、三度目だろうか。
それもどうでもいいことだが。ラウはそう心の中でつぶやく。
「……俺は逃げたりしない!」
それにアスランはこう言い返してくる。
「俺は俺のやり方で世界を正しい方向へと導いてみせる」
まさしく売り言葉に買い言葉だろう。アスランはこう叫ぶように告げるとそのまま歩き出す。その後ろ姿をラウはあきれたように見つめていた。