傀儡の恋
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アスランが旅立ってすぐ、カガリの婚約が報道された。
「なるほど……だから、あいつを遠ざけたと」
バルトフェルドが納得したようにつぶやく。
「恋人がそばにいてはあれこれと厄介だからな」
主にカガリの精神面で。
「アスランがナチュラルであればかまわなかったのでしょうが」
それにラウがこう言い返す。
「確かにな。それならば火遊びですんだだろう」
相手も堂々と愛人を囲うことができたはずだ。
しかし、アスランはコーディネイター。その中でもエリートと言える存在だ。ブルーコスモス寄りの連中には何が何でも認められない相手だろう。
「……だが、この婚約が成立したと言うことは……」
「キラも切り捨てられる可能性大だな」
カガリに対する人質は必要ない。そう考えられれば、だ。
あるいは、逆にカガリを人質にあの子を利用しようとするかもしれない。
「どちらにしろ、オーブも安全ではなくなったわけだ」
自分たちにとって、とバルトフェルドがつぶやく。
「マルキオ師に相談だな」
自分たちだけが逃げるのは簡単だ。しかし、それではオーブに人質を残すことにもなる。彼はそう続けた。
「マルキオ師はもちろん、子ども達やカリダさん夫婦も安全な場所に避難してもらわないといけないからな」
キラの精神の安定のためにも、と続けられてうなずく。
「それならばカガリもそうではないのか?」
キラのことだ。彼女を見捨てられないだろう。
「あぁ。それもわかっている。しかし、あいつは代表主張だ。うかつな行動に出ることはできない」
さすがにそんなことをすれば地球軍側も黙っていないだろう。二カ国同時に相手ができるかどうか。バルトフェルドはそう言った。
「最悪、三カ国になるかもしれないね」
あの男であれば間違いなく漁夫の利を狙うだろう。
「……そうならないことを願うしかないな」
甘い考えかもしれないが、とラウはつぶやく。
「そうだな」
希望的観測はしない。それもまた戦場では当然のことだ。だから、バルトフェルドもあっさりと同意してくれた。
そして、その推測はすぐに現実になってしまった。
襲撃の傷跡は予想以上に大きなものだった。
「……これは……ザフトの機体だね」
忌ま忌ましさを隠せずにラウはそうはき出す。
「狙われたのはどちらだと思う?」
即座にバルトフェルドが問いかけてくる。
「ラクス嬢だろね」
正確に言えば、彼女の影響力をそぎたいと思ったのではないか。そう続けた。
「どちらにしろ、俺たちにはあまりいい状況ではないな」
「確かに」
今回も、キラにだけ戦わせてしまった。
本来であれば、自分がその役目をしなくてはいけないのに、とラウは顔をしかめる。
やはり、なんとかして自分用の機体を確保しなければならないか。そんなことも考える。
「もうじき、ハルマ氏も顔を見せるはずだ。その時に話し合うしかないな」
「……メガフロートに避難ですか?」
「それが確実だろう。あそこならジャンク屋の連中もフォローに回れる」
確かにそれが一番安全だろう。
「また、戦いですか」
「仕方がないな。不本意だが当てにしている」
「キラのためならば仕方がないですね」
そんなことをいいながらも、少しだけ心が高揚してくるのがわかった。
「できるだけ、あの子は戦場に出したくありません」
「同意だ」
もっとも、それは難しいだろう。それが悔しいとラウは唇をかんだ。