傀儡の恋

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 キラは予想以上に子供達に慕われているらしい。それは、ラクス・クラインがあれこれと彼等に話をしているからだろう。
 だが、それは悪いことではないはずだ。
 目の前の光景を見つめながらラウはそう思う。
 少なくとも、以前よりも表情が柔らかくなった。
 ただ、と内心でため息をつく。その分、内に抱えるものが多くなっているような気がする。
 人というものは才能にしろ何にしろ、抱えられる量が決まっている。それ以上を望めばどこかで破綻するものだ。
 だから、かつての自分はすべてを切り捨てた。
 そうする以外にあの感情を昇華するための力を得られなかったからだ──それでも捨てきれなかったものがあったのは大きな誤算だと言うべきなのか。それはわからない。
「……あの」
 そんなことを考えていた時だ。隣の席からおずおずと声がかけられる。
「何かな?」
 笑みを作りながら視線を向ければ、少し年長の少女がこちらを見つめているのがわかった。
「嫌いなお野菜はありますか?」
 少し頬を赤らめながら彼女はこう問いかけてくる。
「好き嫌いは特にないよ」
 そんなことを言っていれば軍でやっていけなくなるから、と心の中だけで付け加えた。
「そうだね。強いてあげればあまり味の濃いものは不得手かな? 今いただいている料理はとてもおいしいと思えるが」
 これはカリダが作ってくれたからだろう。
「そうですか?」
 目の前の少女も手伝ったのか。実にうれしそうな表情で言葉を返してくる。
「嘘は言っていませんよ」
 そう続ければ、彼女はようやく納得したのか。
「明日もお手伝い頑張ります」
 言葉と共に安心したような笑みを浮かべた。
「お兄ちゃん! これ、僕が育てたんだよ」
「こっちは、わたしがつんだの」  彼女よりも小さな子供達はキラに説明するので忙しいようだ。
「おいしいよ」
 ふわりと淡い笑みを浮かべながらキラが言い返している。
「あぁ、そうだ」
 そのまま彼は首をかしげながら続けた。
「預かっていたデータディスクの復旧が終わったからね。明日、とりにおいで」
 それともラクスに渡した方がいいのだろうか。そう言葉を重ねる彼に男の子の一人がうれしそうな表情を作る。
「さすがはキラですわ」
 ラクスがそう言いながらその子の頭をなでていた。
「明日、お散歩の前にキラのお部屋に行きますわ。体調がよろしいようならお散歩も付き合ってください」
 そう続けられた言葉にキラは少しだけ困ったような表情を作る。
「動けるようなら、ね」
 それでも頭から否定しなかったのは彼が優しいからだろう。
「一緒に行けるといいですわね」
 ラクスはそう言って会話を締めくくる。ここで無理にキラの同意を得ないところが彼女の子供達に対する優しさんあのだろうか。
 本当はここに優しい世界だ。
 確かに、誰でもこの優しい場所を守りたいと思うだろう。自分ですらそう思うのだから、親しい者達はなおさらではないか。
 だから、あの男は自分をここによこしたのだ。
 その思惑に乗るのは多少不満だが、最善を尽くそう。
 自分もここの雰囲気は嫌いではない。
 何よりも、彼が微笑んでいる。
 それが一番だ。ラウは心の中でそうつぶやくと食事を再開した。

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最遊釈厄伝