傀儡の恋
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ラウの話を聞いてマルキオは小さくうなずく。
「一人ではないので大丈夫だとは思うのですが」
そして、小さな声でこうつぶやく。
「……そうでしょうか?」
カガリについてはよく知らない。だが、アスランの性格ならばある程度知っている。
あの男は『守る』と言うことに不適切な人間だ。
本人は守っているつもりで、相手を無意識に傷付ける。
それだけではない。
言葉が足りないせいで思い切り誤解をされることもあるのだ。
以前はそんなところも都合がいいと放っておいた。しかし、キラのそばにいるのであれば矯正しておくべきだったもしれない。
「むしろ背中を蹴飛ばすかもしれませんね」
その結果、危険に飛び込んでいくのではないか。どちらがどちらとは言わなかったが、マルキオには伝わったらしい。
「そうですね。あの二人であれば必要と思えば自分たちが最前線に出ますか」
それはそれで困ったものだ、と彼はつぶやく。
「と言っても、彼らのことは彼らに任せるしかできません。残念ですが」
すべてを守れる者などこの世界には存在しない。それは彼もよく知っているのだろう。
「とりあえず、手の届く範囲だけで妥協するしかありませんね」
悔しいが、とマルキオはため息をつく。
「……情報だけであればなんとかなるのではないですか?」
「ジャンク屋ギルドの方も今はごたごたしているからね」
それもおそらくは《一族》が裏で動いたせいだろう。
「……また、誰かがトラブルに顔を突っ込みましたか?」
可能性のある相手の顔を思い浮かべながらそう問いかける。
「むしろ巻き込まれた方でしょうね」
苦笑とともにマルキオはそう言い返してきた。
「もっとも、彼等の方は心配していません。仲間がたくさんいますからね」
問題は、と彼は小さくつぶやく。
「そのために私を呼び寄せたのでしょう? 最低限、ここにいる子供達には傷をつけさせません」
そう言ってラウは笑う。
「申し訳ありません」
だが、なぜかマルキオはこう言ってくる。
「本当はあなたにも戦わずにすむ道を探して差し上げるべきなのでしょうが……」
しかし、自分はそれを知らない。ラウは笑みに少しだけ苦いものを含める。
「それで無駄に散らされる命が減るのであれば、かまいません」
今はそれが一番だろう。
まして、守るべきものが愛しいものとその大切な存在達ならばなおさらだ。
「それに、確実に襲撃があるとは言い切れません」
今はまだ可能性があると言うだけではないか。
「そうですね」
せっかくの平和をどうして怖そうとするのか、とマルキオはつぶやく。
それは怖そうとしている者達が自分がその場にいなかったからだ。
自分の手を汚さずに手に入れたものはさほどありがたくない。そう考えているのだろう。
「皆には夕食の時に紹介させていただきましょう。ジャンク屋ギルドを通してお招きしたということにしておきます」
「わかりました」
確かに、それが一番無難な言い訳だろう。バルトフェルドのところにいたことも、それで説明がつけられるはずだ。
「部屋は私の隣に。そこであればバルトフェルド氏が用意したシステムも使えるはずです」
「ありがとうございます」
それは助かる。心の中でそうつぶやくと感謝の言葉を口にした。
「では、荷物の整理をしてきます」
言葉とともに立ち上がる。
「あまりご無理をされないように」
「わかっています」
そのまま部屋を出た。