傀儡の恋
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チッと舌打ちをされたのは自分が口にしたことが口実ではなかったからだろう。
「こちらです。確かにお渡ししました」
それを無視して、ラウはデータディスクをマルキオの方へと差し出した。まるで見えているかのように、彼はそれへと指を伸ばす。
「確かに」
そのまま表面をなでるとマルキオはそう口にする。ケースの表面に貼られていたそれが文字の代わりなおだろう。ラウはそう判断した。
「それでは、自分はこれで」
これで用事は済んだはずだ。そう考えてラウは立ち上がろうとする。
「まだ話は終わってないんだがな」
そんな彼の頭を押さえつけるのは、もちろんバルトフェルドだ。思い切り楽しそうなのは、間違いなく過去のあれこれからだろう。
「あなたにはしばらく、何の任務もないと聞いております」
それを伝えたのはブレアだろうか。
それよりも、いったい彼は何を言おうとしているのか。そちらの方が不安だ。
「任務はありませんが、やっておきたいことはあります」
だから、こう牽制しておく。
「それでもつきあってもらうがな」
即座にバルトフェルドがこう言ってきた。
「どういうことでしょうか」
こちらの都合はまる無視か、と相手をにらみつける。
「人手不足でなぁ。どうしても後手に回ることが多い」
不本意だが、と彼は言い返してきた。
「と言うことで、暇そうで使えそうなやつは強引スカウトすることにした。お前の上官の許可も出ている」
「はぁ?」
何を言っているのか、と思わず聞き返す。
「あの女がそんな許可を出すはずがないだろう?」
さらにそう続けた。
「あの女?」
「うちのトップは女だ。リーダーはブレアなのだろうがね」
だから、とさらに言葉を重ねる。
「ブレアが何を言おうと、彼女が出てきた時点で私は従わざるを得ないのだけど」
持っている情報その他、すべてその女に開示しなければいけない。
「そんな人間をそばに置くつもりか?」
すべてが筒抜けになるぞ、と言外に問いかける。
「セイランの息子が接触できるしな」
この言葉にバルトフェルドの瞳に険しさがともった。
「と言うことなので、このまま立ち去らせてもらった方がいいと思うが?」
キラ達を危険にさらすわけにはいかないだろう。冷静にそう告げる。
「……だが、なぁ……」
珍しくもバルトフェルドの歯切れが悪い。
「お前を目の届かないところにおいておくのもやっかいだしな」
どうするべきか、と彼は言いながら視線をマルキオへと移した。
「そのときはそのときです。それまでお願いできませんか?」
その気配を察したのか。マルキオがこう言ってきた。
「どのみち、戻られるときには連絡があるのでしょう。そのときまでお手伝いいただければいいのです」
この言葉を何処まで信じていいものか。
「そうしておけ。アスランに殺されたくなければな」
それは脅迫なのか。それとも、とため息をつく。
「経歴ならいくらでもごまかせるが?」
それに、とラウは続ける。
「仕事でもなければオーブ本土になど足を運ばない」
むしろ、最近はプラントの方が多かった。そう心の中だけで付け加える。
「まぁ、あきらめろ」
バルトフェルドがこう言って笑う。
「そうですね。そうしていただければこちらも楽ですね」
どうやら、ラウに拒否権はないらしい。それでもなんとか抜け道を探さなければまずいのではないか。ラウは必死に打開策を構築しようとしていた。
もっとも、実力行使で来られてはどうすることもできなかったが。