傀儡の恋

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 水を持ってきたアスランが何か作業をしていたのはわかっている。
 しかし、それをごまかす方法があると言うのも事実だ。
「では、行って来ます」
 言葉ととにソウキスの姿が水の中へと消える。
 このまま大きく海岸線を回ったところで島に上陸し、そこから自立式の監視ロボットを配備させる予定なのだ。
 あれらは《一族》が独自に開発させたものだ。しかも、部品はジャンク品を多く使っている。例え見つかったとしてもすぐに自分達にはたどり着けないはずだ。
 指示を出したのがカーボン・ヒューマンである自分だとしても、その手綱を握っているのが《一族》のあの少女だと彼は認識している。それだけで十分らしい。
「悲しい生き方だな」
 ナチュラルへの絶対的な忠誠をすり込まれ、使い捨ての道具としての一生を送る。
 そこに自分自身の意思はあるのか。
 いや、彼らはそれすら気づくことはないのだろう。
「……それはそれで幸せかもしれないね」
 自分の存在に悩むことはない。それだけでもうらやましいと思う。
「私はまだ、迷ってばかりだよ」
 君には偉いことを言ったが、と苦笑とともに付け加える。
「それにしても、この不調を何とかしないといけないね」
 少なくとも何とかしようとした痕跡は必要だろう。彼が潜った理由付けもそれで何とかなるはずだ。
 そう判断をすると甲板から立ち上がる。そして、動力部分へと向かった。
「と言っても、私にできることと言えば、場所の特定ぐらいか」
 言葉とともにエンジンのカバーを外す。
 そして、それを甲板へと置いたときだ。彼の耳が誰かが近づいてくる足音をとらえた。
 こんな時間に、いったい誰が。
 アスランでなければいいが。
 そう考えながらラウはゆっくりと立ち上がる。
「どなたですか?」
 そして、音がした方向へと声をかけた。
「……起こしてしまいましたか?」
 それに静かな声が返される。おそらく、自分達が何をしているのか気になって見に来たのだろう。
 その相手がアスランであればここまで驚かなかっただろう。
 しかし、その声の主は予想していない人物だった。
「君は……」
 何故、彼がここにいるのか。真っ先に思ったのはそれだった。
「すみません。もう一度、あなたに会わなければいけないような気がして……」  静かな声がラウの耳に届く。
「あなたは僕が知っているある人に似ているような気がするから」
 さらに重ねられた言葉に心臓が一つ、大きく脈打つ。
 ひょっとして、彼は気づいているのか?
 しかし、自分はミスをした覚えはない。あれだけの会話で自分が《自分ラウ・ル・クルーゼ》だと気づける人間がいるはずがないのだ。
「……自分に、ですか?」
 意味がわからない。そう思いながら聞き返す。
「ご迷惑だとはわかっていたのですが……」
 それにキラは申し訳なさそうに言葉を綴る。その様子から判断して、彼は自分の正体に気づいたわけではないようだ。
 だが、どこかで何かが引っかかったのだろう。それがキラに行動させたのか。
「……もう一人は眠っていますから、少しだけならば……」
 危険だとわかっている。それでも、自分も彼と話がしたい。その欲求に逆らえなかった。
「すみません。あなたの睡眠時間が減りますね」
「少しならかまいませんよ」
 そう言い返しながらも、歓喜を押し殺すのが精一杯だ。
「ありがとうございます」
 言葉とともにキラはうっすらと微笑む。その笑みを切り取っておく方法がないことを、ラウは少しだけ残念に思っていた。

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