傀儡の恋

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 浜辺から少し離れた場所で船を止める。
 ここまでは予定通りだ。
「後は……あちらが我々の言い分を信じてくれるかどうかだね」
 ラウはそう言いながら前髪をかき上げる。仮面を被っていたときは気がつかなかったが、結構鬱陶しいものだ。後でまとめるか、と心の中で呟く。
「それに関してはお任せします」
 ソウキスはあっさりとそう言う。おそらく、ここにいる者達が彼らの存在を知っていると判断してのことだ。
 そして、それは間違っていないとラウも思う。
 セイランはわからないが確かサハクにはソウキスが何人かいたはずだ。彼らが見知っていたとしてもおかしくはない。
「仕方がないね」
 確かに自分が引き受けるしかないだろう。そう判断をしてラウは頷く。
「極力がんばりましょう」
 そう言いながら視線を海岸線へと向けた。
 先ほどから視線の端を横切っていたのは子供達の頭だったらしい。興味津々と言った様子で物陰からこちらを見つめている。その様子がかわいらしく思えてラウは小さな笑みを浮かべた。
 その子供達が不意に視線を移動させる。
「交渉相手が来たのかな?」
 そう言いながらラウもまた子供達が視線を向けている方へと顔の向きを変えた。
 次の瞬間、心臓が高鳴る。
 この作り物の体でもそんな反応が出来るのか。そう呟くが、それすらも何の意味も持たない。
 それは当然だろう。
 自分が死しても消せないほどの執着を抱く相手の姿が確認できたのだ。これで興奮しないわけがない。
 それにしても、背が伸びた。そのせいだろうか。ずいぶんと体の線が細くなったように見える。
 そんな彼がゆっくりとこちらに近づいてきた。
「お兄ちゃん!」
 子供の一人がこの言葉とともに駆け出す。そのまままっすぐに彼へと向かっていく。
 子供の小さな体を彼の両手がすくい上げた。
「ずるい!」
「ぼくも〜」
 次の瞬間、他の子供達も彼の元へと駆け寄っていく。
「だめだぞ、みんな! 兄ちゃんはまだ本調子じゃないんだから」
 後から追いついた少し年長の少年にこう言っている。
 体の線が細くなったと感じたのは錯覚ではなかったか。しかし、何故、と思う。
 あるいは自分のせいだろうか。
 そうだとするならば、まだ彼の中に《自分》がつけた傷が残っていると言うことだ。
 そう考えただけで背筋をぞくりとしたものが駆け上がっていく。
 だが、それを表情に出すわけにはいかない。彼――キラがまっすぐにこちらに向かってきたのだ。
「この島の所有者には、今、連絡を取っています。何のための接近か、お知らせいただけますか?」
 記憶の中にあるものと寸分違わない声が耳に届く。
「近くの海域で資源調査をしていました。その途中でボートのエンジンが不調を訴えたので、緊急避難をさせていただいただけです」
 他意はない、と言外に告げる。
「人が住んでいるのであれば、本土と連絡が取れるだろうという期待はありましたが」
 さらにこう付け加えた。
「そうですか……とりあえず、湾内に停泊することは問題ないと思いますが、それ以上のことは個々では判断できかねます」
 キラはそう言い返してくる。
「確認してきますので、今しばらく待ってください」
 そう言うと彼は近くにいた子供達を集めた。そして、小声で何か指示を与えている。
「わかった。マルキオ様にそう言えばいいんだね?」
「うん。お願い」
 この言葉を合図に子供達は一斉にかけ出していく。
 万が一を考えてここから遠ざけたのか。そう言うところは変わらない、と思ってしまう。
 彼らが十分離れたことを確認して、キラも移動した。少し離れた場所の木の根元へと腰を下ろしている。
「すみませんが、今しばらくそこにいてください」
「わかった」
 キラの言葉にラウは頷く。そんな彼を見つめているキラの瞳は、ただ、静かだった。

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最遊釈厄伝