傀儡の恋

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 あっさりと許可が出たことを考えれば、オーブの中枢部に協力者がいると考えていいだろう。
 それが何者なのか。
 考えなくても想像がつく。
「厄介だね」
 それはそれで、とため息をついた。
 どこで誰に監視されているのかがわからない。うかつな行動を取ることは難しいと言うことだ。
 だが、それは他の人間にはだろう。
 今までも同じようにひと目をかいくぐってあれこれしてきたのだ。これからもできないわけはない。
 そのためにも、自分がどこまで監視されているのかを把握する必要がある。
 まずは、とラウは立ち上がった。そのまま玄関へと向かう。
「どちらに?」
 即座に声が飛んでくる。
「少し買い物をしてくるだけだ。すぐに戻る」
「それなら、私が……」
「君ばかり動かしては、近所の者達に不審を抱かれる。見た目だけならば私の方が年下だからね」
 年下の人間が年上の相手を鼻先で使ってる。あの二人はいったいどのような関係なのか。
 そんな些細な疑問から不審はふくれあがっていくものだ。
「女性を甘く見るものではないよ。特に市井にいる有閑の女性はね」
 彼女たちは独自のネットワークを持っている。そして、それは侮れないものだ。
「……わかりました」
 不審を抱かれるのが一番怖い。
 そう考えているのは自分だけではなかったようだ。いや、彼の方が余計になのだろう。渋々ながらも頷いて見せる。
「では、行ってくる」
 言葉とともにラウは部屋の外に出た。その瞬間、無意識に吐息が漏れる。
「さて……まずは軽くつまめるものを眺めてくるか」
 気に入ったものがあれば購入すればいい。
 問題は、以前と今の味覚が同じかどうかだ。
 食事のたびに微妙な違和感があると言うことは、この体にどこかずれがあるのではないか。
 これが食事に関することだけならばいい。
 だが、他のことにまでかかわってくるようならば厄介だ。
「しかし、今まで気づかなかったとは……管理されていたからか?」
 あの場所では与えられたもの以外口に出来なかった。だから、自分の味覚の差異に気づかなかったのだろう。
 だが、ここではそうではない。
 自分の好みのものを口にすることが出来る。だからこそ余計なのかもしれない。
 もっとも、あそこにいた者達がそれを知らないはずはないだろう。故意に注意しなかった、と考えた方がいいのではないか。
 お前は死人だ。
 そして、お前を生き返らせたのは自分達だ。
 だから、自分達に従え。
 そう言いたいのだろう。
 だが、とラウは心の中で呟く。
 いつまでもおとなしくしたがっていると思うのは間違いだ。いずれ足元をすくってやろう。
 心の中でそう呟く。
 その日を楽しみに、今はおとなしくしていよう。
 何よりも、キラの様子を確認したい。
「……君を害させるわけにはいかないからね」
 そう呟くと、ラウは表情を取り繕った。

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最遊釈厄伝