傀儡の恋
21
オーブはこんなに暮らしにくい国だっただろうか。
ふっとそんなことを考えてしまう。
「オーブの理念はまだ生きているはずだが……」
トップが変わるとこんなにも解釈が変わるのか、と思わずにいられない。
いや、トップに立っている人間は変わらないのだろう。しかし、それをねじ曲げている者達がいるだけなのだ。
それが誰なのか。わからない人間はいないのではないかとすら思う。
ウズミが生きていた頃からの約束だと言って息子とカガリを婚約させ、なおかつその後見に収まった男以外にいるはずがない。
しかし、誰もそれに口出しできないのは、その男が五氏族の中で現在、一番権勢を誇っているからだろう。
それすらもブルーコスモスという虎の威を借りているだけなのだが。
実際《代表首長》の座についているのはカガリだ。
もっとも、これも政治的なものだと言うことは明白ではある。
ムウ・ラ・フラガが死んだ以上、三隻連合の中心人物の中でナチュラルなのは彼女だけだ。そんな存在を使わないわけにはいかないのだろう。
実際、彼女の人気は高い。
本人がそれを望んでいるのかどうかは問題だろうが。だが、おそらく、自分が目立てば目立つほど、キラの存在を隠すことが出来るとわかっていてやっているのではないか。
「それだけ、あの子の状態が悪いと言うことか」
あの戦争が終結した後から、キラは一切表に出ていない。全てラクスとカガリが終わらせたと聞いている。
それは間違いなく、あの戦いで心を疲弊させてしまったキラを矢面に立たせないためだろう。
よみがえると最初からわかっていれば、あそこまであの子供を傷つけなかったものを。今更ながら後悔の念を覚えるあたり、自分も普通の人間だったと言うことか。そう考えてラウは苦笑を浮かべる。
だが、あのときはそれしか考えられなかった。
そして、と心の中で付け加える。
自分の願いが叶った証拠だろうとどこかうれしさを感じる。
「こんな男に目をつけられるとは……本当に不幸な子だ」
そして、未だに思われ続けられているとは。そう続けた。
だからこそ《一族》が自分に目をつけたのだろう。
しかし、こんな自分の気持ちは彼をさらに傷つけるだけだと言うこともわかっている。
「遠くから見つめるだけでもかまわないか」
だから、これでいい。
「私は死者だからな」
そして、今は《一族》の傀儡人形だ。
そばにいてはキラのためにならない。状況さえわかればそれでいい。
ラウは自分にそう言い聞かせていた。
明日には、実際にこの目で彼の姿を見ることも出来るだろう。
「……カガリのそばに行くことにした」
唐突にアスランがそう言ってくる。
「あいつを支えてやる必要がある」
確かにそれはそうだろう。今のカガリは適地で孤軍奮闘をしているようなものだ。しかし、それがどのような戦場なのかまでは、自分にはわからない。
だが、アスランには想像がついているのだろう。だから、こう切り出したのではないか。
それについてはかまわない。むしろそうして欲しいと思う。
それなのにどこか自分が見捨てられるような気がするのは何故なのだろうか。
「子供達が寂しがるね」
その気持ちを正直に口に出すことができない。代わりにキラは呟くように言葉を口にする。
「何かあればすぐに帰ってくるさ」
アスランは笑いながらそう言った。
「何がなくても、休みがもらえれば帰ってくるに決まっているし」
それはカガリがこちらに来たがるからだろう。
「そう、だね」
もう彼は決めてしまったのだ。ならば、自分が何を言ってもその気持ちを変えることは不可能だろう。
「がんばってね」
だから、こう言う以外出来なかった。