「……ミゲルが《紅》を着れなかった理由?」
 キラの確認の言葉に、ラスティは大きく頷いてみせる。
「だってさ……MSの操縦はもちろん、状況判断も体術もトップクラスだろ? 確かに、キラはその他に情報処理とかなんかも得意だって聞いたけどさ」
 ミゲルもそこそこだったんだろう?
 ラスティはさらにこう付け加えた。
「そうなんだけどね」
 何か意味ありげな表情を作りながら、キラはミゲルへと視線を向ける。だが、本人は気づいていない。どうやら、ドクターにラスティの容態を確認する方に意識が向いているようだ。
「言っちゃって良いのかなぁ……」
 本人の許可、出てないんだけど……とキラは小首をかしげてみせる。
「良いって。その代わり、後でアスランのあれこれ教えるから」
 なっ、と言いながらラスティは笑みを向けてきた。
「本当に知らないからね」
 後でケンカをする原因になっても……とキラは付け加える。同時に、仲裁はしないからね、とも念を押した。
「わかっているよ。そん時はそん時で何とかするって」
 だから教えてくれよ、とラスティはさらにねだってくる。
「えっとね……ミゲルはナイフとかMSの操縦とかは間違いなくトップクラスだったんだけど……何でか知らないけど、生身で銃を構えると明後日の方向にとんでっちゃうんだよね」
 MSだとどんな標的でも百発百中なのに……とキラは告げた。
「今は……普通ですけど?」
「特訓させられてたからでしょ」
 ついでに言えば、動く標的であれば間違いなく当てられたのだ、ミゲルは。しかも、確実に急所を捕らえるという。
「……それで、点数が低い?」
 それだけ出来れば十分だろう、とラスティは言い返してくる。
「捕虜になっちゃった味方も一緒に撃つんだよ、ミゲルは」
 それはまずいでしょう、とキラが言えば納得したらしい。
「……俺、ミゲルの前で捕虜にならないようにしないと……」
「まぁ、大丈夫だとは思うけどね」
 彼はあくまでもMSのパイロットで、そっちの方は他の者に回されるに決まっているから、とキラは笑う。
「僕がその手の任務に回されないのと同じでね」
 生身の相手だと殺せないんだよねぇ……とキラは笑みに苦いものを含ませる。もっとも、だからこそアカデミーではそれなりの成績を収めていられた、とも言えるのだが。
「で、それが最悪とまではいかなくても、ペナぎりぎりだったでしょう? 後は……教官とケンカをして最低限の成績しか付けてもらえなかった科目があったんだよね」
 謝ればいいのに、妙なところで強情だから、彼も……とキラは告げる。
「もっとも、その教官も問題ありの人だったから、後期にはみんなそろって追い出したけどね」
「それも……なんだかって言いたいけど……」
 やっぱ、キラって怖い人……とラスティが呟く。
「そう思う?」
 にっこりと微笑みながら問いかければ、
「……返事は保留にさせて頂きます」
 ラスティが即座にこう言い返してきた。
「正しい判断、と言ってあげるべきかな?」
 それとも、とキラは笑う。
「……あ、のさ……」
 ラスティの笑みがその瞬間引きつった。
「と言う話は置いておいて……あの二人って、アカデミー時代からああだったの?」
 アスランとイザーク、とキラは話題を変える。その瞬間、ラスティがほっとしたような表情を作った。
「最初のうちは接点がなかったんだけどな。成績が発表されるようになってから、イザークがアスランに突っかかり始めたっていうのが最初だよな」
 そして、記憶の中をたどりながらこう口にする。
「俺やニコルもそれなりに絡まれたけど……まぁ、基本的にイザークの方が成績が良かったから、そこそこだったかな? でもさ。アスランって、なんでも出来たんだよな、俺達の中では」
 全ての科目でトップ。
 その上、父親は国防委員長。
 母が法務委員長であるイザークにとってはライバル以外の何ものでもなかったのだろう、とラスティは口にする。
「しかも、アスランがああいう奴だから、余計に煽ってしまったんだろうな」
 イザークを……と言う言葉に、キラは小首をかしげた。
「ああいう奴って?」
 キラが知っているアスランは、今の彼と変わらない。だが、ラスティはもちろん、ミゲル達も『アスランが変わった』と言っているのだ。それを本人に問いかけても答えてくれないし、ミゲルは笑って誤魔化すだけだった。まして、忙しいクルーゼに聞くわけにもいかず、困っていた、と言うのが事実である。
「あぁ、そうか。キラは俺がドジをふんだ時に戻ってきたから、別れてからその時までのことは知らなかったんだよな」
 ようやく思い出した、と言うようにラスティは頷く。
「俺達からすれば、今のアスランの方が信じられないんだぜ」
 ニヤリと笑いながら、彼は口を開いた。
「何をしても表情を変えることがない鉄面皮。しかも、与えられた課題だけは完璧にこなす。一部にはコンピューターじゃないかって言われてたんだよな、あいつ」
 すらすらとラスティの口から出てきた言葉に、キラは思わず目を丸くしてしまった。
「それって、誰……って言っていい?」
 信じられない、とキラは正直に顔に出す。
「だろう? 俺だって、今のアスランは信じられねぇもん」
 もっとも、今の彼の方が好きだが……とラスティは笑う。
「俺は同室だったからさ。結構、他の連中が知らないアスランの表情をあれこれ知っているけど、他の連中は知らないかもね」
 それでも、今ほど豊かな表情を見られたわけではない、と彼は付け加える。
「ミゲルにしても、かなり余裕が出てきたし……キラが戻ってきてくれてよかったと思うよ」
 こう付け加えられて、キラはうれしさを隠せなかった。



パラダイスザフト及び6月通販用のペーパーに載せていた小話です。
これを書いた瞬間、何かラスキラも……と思い始めてしまいました。でも、この二人だと百合?
それも楽しいかもしれないですね(苦笑)