戦闘が終わったばかりで、まだ周囲がざわめいているのがわかる。
 だからといって、自分たちが放っておかれるのは今ひとつ気に入らない。
 そう思ってしまうのは、自分だけなのだろうか。カガリはフラガやマリュー達の様子を見ながらそんなことを考えてしまった。
 だが、それ以上に気に入らないことがある。
「……キラの姿が、見えないな」
 前の時にはこちらの艦にたはずなのに……と思う。それなのに、出迎えにも来てくれないなんて……と心の中で呟きながらストライクを見つめていた。
「って……」
 だが、ハッチから出てきた人影は彼のものではない。
「キラじゃない?」
 何故……とカガリは呆然とする。
「ストライクは、キラの機体だったんじゃないのか?」
 なのに、どうして……と呟いた。
「まぁ、機体なんて言うのは道具だからな。状況次第では別のものに乗り換えることもあるだろうよ」
 フラガがこう声をかけてくる。
「ラウの乗っていた機体の他にも新型があったようだからな」
 そっちのどちらかに乗っていたのかもしれない、と彼は付け加えた。
 クルーゼが新型に乗っていたのには確かに自分も気づいたが、他にもあったなんて知らなかった……とカガリは思う。それとも、それが実戦経験があるかどうかの差なのだろうか。
「……でも、それなら、キラは?」
 どこにいるんだ、とカガリは呟く。
「まぁ、まだ戦闘が終わったばかりで混乱しているんだ。それに、ラウがこっちに来たのなら、キラはあいつの代わりに後始末を引き受けなきゃないはずだしな」
 ほら、といいながらフラガがある方向を指さす。そうすれば、パイロットスーツに身を包んだクルーゼの姿が確認できた。
「お前でも、それ、着るんだな」
 しかし、やはり特別バージョンか……フラガがクルーゼに向かって笑いかけている。
「さすがに、実戦に初投入の機体ではな。着なければ、キラが不安がる。それであの子の集中力を削ぐわけにはいくまい」
 他にも理由があったがな……と彼も口元に苦笑を浮かべつつ言葉を返してきた。
「……で、キラは?」
 どこにいるのか、とついついカガリは口に出してしまった。
「おやおや。私よりもキラの方が気になるのか」
 この場合、怒るべきなのか、自分は……と冗談を滲ませた声でクルーゼがフラガに問いかけている。
「どうだろうな」
 にやりと笑いながらフラガが口を開く。
「カガリは、そっちの面ではまだまだオコサマだからな」
 下手な男に興味を持たれるよりは、弟の方が安心なのではないか……と彼はからかうような口調で付け加えた。
「別に、そういうわけじゃ……」
 このままでは、絶対にまずい状況になる。フラガにからかわれるのはもちろん、クルーゼの機嫌を損ねるのもまずいし……とカガリは慌てて口を開く。
「ただ……キラもアスランもいないなって、そう思っただけで……」
 そう言えば、アスランが乗っていたイージスもここにはないな、とカガリはようやく気づく。
「彼等は、今、任務でエターナルの方に乗り込んでいる。あぁ。そう言えば、アイシャ殿からそちらの都合がよければ、シン・アスカをあちらに寄越してくれ、といわれていたな」
 その言葉がしっかりと耳に届いたのだろう。シンが頬を引きつらせている。
「しっかりと責任を持ってしごいてくださるそうだ」
 そんなシンの表情を面白そうに見つめていたクルーゼが、しっかりととどめを刺してくれる。
「まぁ、その時にでもキラ達にこちらに来るよう、連絡は入れるが……あちらも機体の整備があるだろうからな。現状では無理は言えまい」
 特に、今の状況では……という言葉に、カガリも反論はできない。現状で自分がワガママを口にしていいのかどうかの判断ぐらいは付くようになったのだ。
「まぁ、仕方がないな」
「こちらに来るのは無理でも、通信ぐらいは許可をしよう。もっとも、彼等の手が空いていれば、だが」
 だから、決して勝手な行動を取らないように……とクルーゼは釘を刺してくる。
「わかっています」
 そこまで信頼がないのはちょっと悲しいが……とカガリは心の中で付け加えた。
「いいこだな、カガリは」
 だが、こうしてなでてくれる彼の手は気持ちいいから、いいのか……とも思う。この鬱憤は、後でアスランの顔を見たときにでもぶつければいいだろうし、とも。
「ということで、移動をしてもらいたいのだが……もう少し待っていてくれるかね? あぁ、ムウとシンは着替えるのなら一緒に来るがいい」
 控え室に案内をする、とクルーゼはさりげなく付け加える。
「……兄様……」
 ということは、自分たちはここに残されるのだろうか。少しだけ不安になってカガリは彼に呼びかける。
「カガリが、私たちの着替えを見たい……というのなら付いてきてもかまわないがね」
 だが、こう言われてついて行けるわけがない。
「いえ、待っていますが……入り口の所まで付いていっていいですか」
 その方が安心できる、とカガリは問いかけてみた。
「かまわないよ。その方が、時間の短縮になるし、ね」
「そうだな。マリューも付いてこい」
 考えたら、この場に限定してカガリよりもお前の方がまずそうだ……とフラガが口にする。
「あら、ひどいわね」
「本当のことだろうが。エリカ主任が付いてこなくて、マジでよかったかもしれないな」
 でないと、彼等の邪魔をしかねない……といいながら、視線を整備陣へと向け多。それに関しては、カガリだけではなくマリューも否定できない。
「まぁ、いい。取りあえず着替えて……それからだな」
 ゆっくりと話をして、それからいろいろと相談をしなければいけないだろう、とフラガは結論づける。
「そうだな」
 クルーゼもあっさりと頷くと『こちらだ』といって移動を開始した。その後をカガリ達も追いかける。
 そんな彼等を、興味深げな視線が見送っていた。