この照らす日月の下は……

BACK | TOP

  80  



 ウズミの工作が功を奏したのか。それからしばらくして停戦へと持ち込むことが可能になった。
 あるいは、誰もがこの戦争に疲れていたのかもしれない。一時的にでも停戦をして体勢を整えようとしているのだとしても、一度平穏を取り戻せば再度回線をすることに異を唱えるもの達が出てくるはずだ。
「後は、戦争で稼ごうとする連中をなんとかすればいいと思うぞ」
 ムウがそう言ってくる。
「そんな人たちがいるの?」
 信じられない、とキラは聞き返す。
「言葉は何だが、戦争は金になる。正確に言えば、兵器はな」
 あれらは値段があってないようなものだから、とムウは教えてくれる。
「MSだってそうだろう? まぁ、あいつらが使っている専用機はまた別枠だが」
 あれは双子の趣味で改造しまくっているから、すでにいくら使われているのかわかったものではないらしい。だが、二人とも自分の私財を使っているから誰も文句は言えないだろうとも付け加える。
「あれのデーターがあればナチュラルでも動かせるOSを作れそうですね」
 動きのパターンをあらかじめ集めておいて、パイロットの要望にあわせてそれをAIが組み立てればいい。多少反応が鈍くなるが民間用の非戦闘アーマーなら問題はないだろう。
「……お前なら作れるだろうが……やるなよ?」
 馬鹿がどこにいるかわからない以上、とムウが釘を刺してくる。
「それがカレッジでの研究テーマだったんだけど」
「……わかってるけどな。あいつらのデーターだと簡単に戦闘用に流用できるだろう?」
「だよね。でも、兄さんとカガリの分なら作ってもいいかなぁ」
 と言うよりも作ってみたい。キラは心の中でそうつぶやく。もちろん、そのくらいはムウにもわかっているはずだ。
「あいつらの許可が出るかどうか、話してみてからな」
 許可が出たら作っていいぞ。そう言われても、それが一番難しいような気がする。
 あきらめた方が無難なのだろうか。
 小さなため息とともにキラはそうはき出した。

 その間にも停戦協定締結のための話し合いは進んでいたらしい。
 同時に、カガリの方もラクスを呼び寄せようと頑張っていたようだ。もちろん、ラクスの方でも根回しをしていたことは言うまでもない。
 最終的に条約締結の後の式典で彼女が歌を披露することになった。そのためにオーブへと来訪する予定だ。もちろん歌うのは彼女だけではない。大西洋連合からもあちらの人気歌手が来る予定だ。
「それでも、私が聞きたいと思うのはラクスの歌だがな」
 打ち合わせと称してアマノミハシラに逃げてきたカガリがそう言って笑う。
「……あちらの方の歌は知らないからね」
 何というか、戦争万歳が多くてあまり聞く気になれなかったのだ。
 それが国としての政策だと言われればそれまでだが、やはりそういった芸能関係は戦争と関わらないようにしてほしいと思う。
「そうだな。好みに合わん」
 カガリも同じ考えだったのか。きっぱりと言い切る。
「それでも式典には出ないといけないんでしょう?」
「ラクスの希望だからな。あぁ、お前の友人達にも招待状は出しておいたからな」
 カガリの言葉にキラは小さな笑みを漏らす。
「こういうことは手際がいいんだね」
「ラクスからの条件だからな。それに約束しただろう?」
「覚えているけど……ラクスも疲れているのかな」
 そばにアスランがいるのだ。いくらあの時、さんざんミナ達にしめられたとはいえ、いつまでもおとなしくしているとは思えない。それでラクスが苦労をしているのではないか、とキラは考えたのだ。
「いや、それに関しては問題ないらしいぞ」
 報告が来ている、とカガリは付け加える。
「アスランはあれ以来借りてきた猫状態らしいぞ。まぁ、強硬派と穏健派の対立が一時的に激化したらしいが……それは彼女も覚悟の上だったらしい」
 それでも平和がほしかったのだ、とラクスは言っていた。カガリはそう続ける。
「あの見た目にだまされてはだめと言うことだな」
「ラクスが本気を出せばミナ様と互角にやり合えると思うよ」
 彼女を《癒やしの歌姫》というのは勝手だが、その内面はかなり激しい。どんな話題を振られても受け答えできるように学んでいるとも聞いたし、とキラは続ける。興味のあることしかやらない自分とは雲泥の差かもしれない。
「まぁ、お前の場合、皆の手綱を握っていてくれればそれでいいんだが」
 特にギナの、と付け加えられて笑みに苦いものを加えた。
「ギナ様の手綱なんて取れるのはミナ様だけだよ」
 無理、ときっぱりと宣言しておく。
「僕にできるのはお願いすることだけだし」
「それでいい。ミナ様以外にもある程度行動を制御できる人間がいてくれれば安心できる」
 本当、ギナ様は危険物扱いだな……と複雑な気持ちになった。
「口調はともあれ、凄く優しいのに」
「お前にだけだって」
「そうかなぁ」
 おかしいな、とキラは首をかしげる。
「そうだぞ。お前が関わってないときには怖い。関わっていてもあいつみたいな馬鹿にはああだし」
 だが、カガリに重ねて断言されて反論をするのも面倒になってきたのも事実だ。
「あれは相手が相手だからだよ」
 とりあえずこう言い返しておく。
「年単位だからな」
 納得とつぶやくカガリにキラも大きくうなずいて見せた。

 久々の友人達との再会はやはりうれしい。
「皆、元気そうだね」
 よかったと言いながらほほえめば、彼らはすぐに駆け寄ってきてくれた。
「キラも元気そうね」
 フレイが言葉とともに抱きついてくる。
「今日はパパも来ているの。会ってくれる?」
「僕でいいなら」
 でも、とキラは首をかしげた。
「多分、ギナ様がついてくるよ」
「かまわないわ。そのくらいの方がインパクトがあっていいもの」
 自分の交友関係を見せつけて、このままオーブにいることを認めさせるためにも……とフレイは笑う。
「やっぱりそう言うことになったの?」
 ミリアリアの言葉にフレイがうなずいて見せた。
「一応、戦争は終わったからって……自分勝手よね、やっぱり」
「お父さんだからじゃない? うちも、久々にあったら泣かれたし……」
 あれはちょっときたわ、とミリアリアも同意をする。
「……いいね。うちは、父さんが忙しすぎてまだ回線越しでしか話してないや」
 自分のせいだから文句も言えない、とキラはため息をつく。
「ひょっとして、あの映像?」
「もあるけど、暇だったからちょっとしたプログラムを作ってたの。それがギナ様の目にとまって、その検証で父さん達が忙しくなったんだよね」
 それでもこちらでカリダには会えたからいいけど、とキラは付け加える。
「確かに、キラが悪いわね」
「パワードスーツのOSに使えそうだと思ったんだよ」
 それをギナが、とキラがほほを膨らませたときだ。
「カガリさんとラクスさんがこっちに来たわよ」
 面倒な話は後にしたら、とフレイが割って入ってくる。
「そうね。今はそれよりも再会を喜ぶ方が重要だわ」
 ミリアリアもあっさりと同意をした。
「……俺たちの出番がなかった」
「女性陣に勝てないんだから仕方がないな」
 サイとトールがそう言って肩をすくめている。
 こんな風に明るい場所で笑い合えるのが一番だ。キラはそう思うとカガリ達に向かって手を振った。

 この光の下で、自分たちは、今日も笑っていよう……


BACK | TOP


最遊釈厄伝