この照らす日月の下は……

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 アマノミハシラについたのはラクス達と別れてから一週間ほど経ってのことだ。もちろん、もっと早く戻ろうと思えばできた。だが、わざと大回りをして追跡がないかどうかを確認したのは本拠地を知られたくないからだ。
「二・三日、ここでゆっくりと休むがよい。その間に身内の居場所を調べておこう」
 ミナの言葉にフレイ達がうなずいてみせる。
「そういえば、キラはどこの部屋を使うの?」
 疑問に思ったのだろう。ミリアリアが問いかけてきた。
「いつもの部屋でしょうか」
 そういえばと思いながらミナに確認する。
「当然であろう。あそこはサハクとそれに連なるものしか入れぬゆえ、キラが皆と会うには談話室になるの」
 皆にはすまないが、と彼女は言い返してきた。
「あそこの警備上、システムを変えるわけにはゆかぬからな」
 お前達を信頼していないわけではない、と告げられてサイ達の方が焦りを覚えたらしい。
「もちろんわかっています」
 仕方がないことですから、と慌てたように彼が口にした。
「代わりと言っては何だが、お前達が使う部屋からは直通でキラに連絡が取れるようにしておいた」
 適当な時間に連絡を取り合うがいい。ミナの言葉にミリアリアとフレイはうれしそうだ。
「声をかけたら出てきてくれるのよね?」
 その表情のままフレイがキラに問いかけてくる。
「もちろん」
 キラもまたそう言ってほほえんだ。
「仲がよくて何よりよ。そのままでいてほしいものだな」
 では、後は吉良に任せる。そう告げると同時にミナはきびすを返す。
「案内をしてやるがよい。ジャンク屋と同レベルまでは許可できよう」
「はい」
 だいたいの範囲がわかれば、後は自分の権限が通用する場所だけを案内すればいい。キラはそう判断をしてミナに了承の意を告げる。
「そうだ。それが終わり次第、一度執務室に顔を出せ。おじ上方と連絡を取れるようにしておくゆえ」
「はい」
 その言葉はうれしい。だが、自分だけいいのだろうか。
「よかったわね、キラ」
 即座にミリアリアがこう言ってくる。
「うちの親も見つかったときには回線を開けていただけるのでしょうか」
 サイはサイでミナに問いかけていた。
「もちろんだとも」
 間髪入れずにミナが言葉を返す。
「なら、キラ。遠慮せずにご両親に甘えてこい。うちの親が見つかったら俺もそうさせてもらうから」
「そうね。でも、パパは忙しくて時間とってもらえないかな」
「それこそ心配いらないよ、フレイ。おじさまならすぐに飛んできそうだよ」
 仕事を放り出して、とサイが告げる。
「やめて。それはそれで厄介だから」
 自分の立場を考えてほしい、とフレイが即座に言い返す。
「ここに立ち入りを許可されるかどうか、また別問題だろうし」
 トールがそういえば、フレイはあっさりと「そうね」とうなずいて見せた。
「パパは大西洋連邦の事務次官だもの。拒否されてもおかしくないわね」
 そうなったら、自分達が地球軍にどれだけ非道なことをされたのか、訴える予定だ。そう彼女は続ける。
「おじさまが泣くな」
 サイがそうつぶやく。
「まぁ、いいんじゃないか?」
 にまにまと笑いながらトールが口を開く。
「親に反抗するのも子供の権利だろうし」
「反抗期と反抗は違うと思うけど?」
 トールの言葉にミリアリアがあきれたようにつぶやいた。
「そのときはそのときよ。それより、キラ。案内して」
 興味はすでにここの内部に映っていたらしい。フレイがこう言ってくる。
「そうだね。とりあえず食堂かな?」
 一番重要だろうし、とキラもうなずく。そのまま移動を開始した彼女たちをミナが優しい瞳で見送っていた。

「地球軍にダメージを与える方法って何だろうね」
 小さな声でキラはそうつぶやく。
 彼らも命令に従っただけだとはわかっている。それでもようやく手に入れた優しい場所を奪われたことに怒りを感じていないわけではないのだ。
 だから、少しぐらい嫌がらせをしてもかまわないだろう。
 それはちょっとした思いつきで、決して答えを求めてのつぶやきではなかった。
「民衆を動かすことだろう?」
 だが、背後からそれに対する答えが戻ってくる。
「カナード兄さん」
 いつの間に、と思う。だが、軍人である彼には気配を消すぐらい何でもないことなのだろうとすぐに納得する。
「ムウさんが月について即座に辞表をたたきつけたそうだ」
 そのまま軍を出奔したらしいから、近いうちに帰ってくるだろうな。彼はそう続けた。
「……皆にばれる……」
「そのあたりは大丈夫だろう。あの人はきちんと状況をつかめる人だ」
 こちらに引っ込んでいるだろう、とカナードは言う。それならば大丈夫だろう、とキラもうなずいて見せた。
「話を元に戻すが、民衆はヘリオポリスで何があったのか知らない。だから、そのときの映像を流せばいい」
 それだけで軍に非難が集中するだろう。カナードはそう言った。
「普通にアップするだけじゃ消されるよね」
「間違いなく」
「なら、どこかのだーバーにゲリラ的にアップされるようにすればいいか。自己増殖の機能もつけて」
 下手な鉄砲も数打ちゃ当たる方式だ、とキラはつぶやく。数が多ければ消されるまでに誰かの目に入る。それが閲覧されると同時にそこでコピーを作ればさらに増えていく。最終的にマスコミのサーバーまでたどり着けばいいだけだ。
「なら、僕の専門分野だね」
 自分にもできることがある。それが何よりもうれしい。
「ほどほどにな。それとばれるなよ?」
「もちろん」
 即座にそう答えれば、カナードは苦笑とともに髪をなでてくれた。


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最遊釈厄伝