この照らす日月の下は……

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「……ラウはともかくとして、地球軍の指揮官も馬鹿ではないようだな」
 双方から送られてきた通信の内容を確認してミナはそうつぶやく。
「ギナを下がらせろ。それと、停戦信号を」
 ミナは即座に指示を出す。
「わかりました」
 それに従ってソウキス達が行動を開始した。
「さて、素直に従ってくれるかな?」
 指揮官は大丈夫だろう。問題は部下達ではないか。
 そうは言うが、地球軍に関しては問題がない。あそこで戦っているのはあれだ。こちらの意図をくまないはずがない。
 だとするならば、問題はザフトの方だろう。
「あれのことだ。それなりに掌握しているとは思うが……どこにでも馬鹿はいるからな」
 おそらく停戦は素直に従うだろう。だが、問題はその後ではないか。情報ではキラに執着していたザラの息子がラウの部下として参加しているという。
「……そのあたり、ギナに言い含めておかねばならぬな」
 いざというときには彼を矢面に出す。そのことについての、と心の中で付け加える。
「後は早々にこちらに引き取れば余計な手出しはできまい」
 本当にあの父子は、とため息をつく。
「だが、気づいたのが我らでよかったかもしれぬ」
 これがサハクやアスハではなく青嵐だったならどうなっていたことか。もっとも、あいつらは宇宙に上がってくることはほぼないが。
「信号弾を発射します」
 そんなことを考えている間に準備は終わっていたようだ。この言葉とともに虚空に鮮やかな花が開く。
「地球軍、ザフトともに動きを止めました」
「わかった。マイクを回せ」
 そう告げれば、即座に差し出される。ソウキス達ともそれなりの時間をとも過ごしているからか。最近は指示を出す前に自分の次の行動を推測する子とっができるらしい。それはそれで楽でいい。
「ロンド・サハクだ。これより先、この場での戦闘を預かる。また、地球軍の戦艦にオーブ籍の人間が乗り込んでいる場合、即座に引き渡していただくよう、お願いする。もちろん、それに対する対価はお払いしよう」
 この宙域にいるすべてのもの達に聞こえるように言葉を発する。
 それにどのような反応を返してくるか。それによってこちらも今後の対処を考えなければいけない。
 だが、それは自分には荷が重いような気がする。
 それでも大切なもの達の幸せのためには踏ん張らないわけにはいかない。何よりも、自分には重荷をともに抱えてくれる弟がいるではないか。
 だから大丈夫だ。そう心の中でつぶやいていた。

 艦の揺れが止まった。
「戦闘が終わったのか?」
 それとも、とカナードが眉根を寄せたときだ。
『失礼。今かまわないか?』
 外から声がかけられる。この声は確か、ムウが『こいつらは信用していい』と言っていたうちの一人だったはずだ。
 だが、この状況でなぜ、とは思う。
「確認のためにあいつを入れるぞ」
 それでも念のために周囲のもの達に確認をとる。うなずいて見せたのを見てからドアのロックを外した。
「何のようだ?」
 そう言いながら相手と子供達の間に陣取るようにドアの前に立つ。
「オーブの艦艇が近くにいる。君たちの安全を確認したいとの要望だ。悪いがついてきてくれないか?」
「全員か?」
 自分だけではまずいのか、と言外に告げる。
「うちの副長がミスをしてくれたからな。できればラクス嬢とそちらのお嬢さんも一緒だとうれしい」
 その言葉にカナードは深いため息をつく。
「またコーディネイターだからどうのこうのと口走ったのか?」
「……と言うよりも、ラクス嬢の存在を盾に逃げようとしただけだ」
「それは向こうを怒らせるだけだろうが」
 いや、常識を知っている宇宙船乗りをすべて怒らせかねない言動だ。それを理解していないというのはかなり問題ではないか。
「大丈夫か、そいつの頭の中身は」
 思わずこう問いかけてしまった。
「あの人は今回が初めての宇宙船の業務だから」
 それまでは地球上での任務がほとんどだったらしい。あるいは月の地球軍基地か。どちらにしろ、その手の暗黙の了解を理解していない。そう彼は言う。
「……ラクス嬢はかまわないが、キラはただの民間人だぞ。少なくとも今は存在を広めたくない」
 どこに馬鹿が潜んでいるかわからないからな、と心の中だけで付け加える。
「そうですわね。ザフトにはまだ、婚姻相手が決まっていない方もおられます。その中で暴挙に出る方がいないとも限りませんわ」
 不本意ですが軍は男性が多いですし、とラクスもうなずいて見せた。
「他の皆様もかわいらしいですが、第一世代とはいえコーディネイターなのはキラだけです。ターゲットになるとすればキラだけですわ」
 ラクスもそう言って牽制する。
「サハクとのつながりが得られるかもしれないとなればなおさらです」
 万が一の時には責任がとれるのか。そう続ければ相手も困ったような表情を作った。
「キラの代わりは私でもかまわないだろう。サハクの方々とは面識がある」
 そんな彼が気の毒になったのか。カガリがそう言いながら手を上げた。
「カナードさんと私の言葉であれば、きっと信じてもらえるだろう」
 それで十分だろう、と彼女も言い切る。
「プラントにはこの子のストーカーがいるからな。どこからそれに情報が行くかわからない以上、安全は確保しておきたい」
 かわいいから仕方がないが、と言われてキラがいたたまれないような表情を作った。そんな彼女をフレイトミリアリアが慰めている。
「そういうことならば、仕方がないかな。あぁ。バジルール少尉が怖いからと言っておけばいいか」
 そう言われても仕方がない言動をとってきた以上、納得してもらうしかない。彼はそう言って笑った。どうやら、彼の方もそれなりに鬱憤がたまっていたようだ。
「では、ついてきてくれ」
 そう言うと彼はきびすを返す。そのまま移動を開始した。
「俺たちが戻ってくるまで絶対にロックは外すな。いいな?」
 カナードはそう言い置くと彼の後を追いかけていく。ラクスとカガリも同様だ。
「……これで父さん達のところに帰れればいいんだけど」
 ドアを閉める瞬間、キラのつぶやきが耳に届く。それが彼女の本心だとわかっているだけに、意地でもそうさせて見せようとカナードは決意した。


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最遊釈厄伝