この照らす日月の下は……
59
「そろそろあの子のことを自由にしないとまずいんじゃないか?」
打ち合わせの際、ムウはキラのことを切り出した。
「部屋に閉じ込めておくだけならばまだしも、拘束するのは言い逃れできない条約違反だぞ」
こう付け加えればラミアスの表情がこわばる。いや、彼女だけではない。同席していたマードック達も同じような表情になっていた。
「拘束、ですか?」
「足首に鎖がつけられていたな。あの子が隠しているから民間人のお子様達は気付いていないようだが、保護者にはばれているぞ」
その保護者が誰のことかは口にしない。
「……坊主が協力してくれないのは、それも原因ですかい?」
マードックが低い声でそう問いかけてくる。
「どうだろうな。あいつはオーブの軍人だって言うし……それでも、全く協力してくれない原因の一端は担っているかもな」
言葉とともにムウはバジルールをにらみつけた。
「今回のことは間違いなくオーブ──アスハとサハクに知られるだろう。さて、その責任をどうとるつもりだ?」
「……幼かろうと、あれはコーディネイターです」
それに対するバジルールの返答はこれだ。
「自分は少しでも安全を確保するために最適の方法をとったまでです」
「その結果、獅子の尾を踏みにじったと」
バジルール一人の首ですめばいいな、とムウは続ける。
「どういうことでしょうか」
「君のせいでオーブを敵に回したな、と言うことだ」
おそらく、今後アスハとサハクの協力は得られないだろう。それはモルゲンレーテの技術力をあてに出来なくなったと言うことだ。
いや、それだけならばまだいい。
現在軍やその他で使われているオーブの特許の許可を取り消されたらどうなるか。今後製造する戦艦や代替えの技術を使わなければいけない。だが、地球軍にそれはないのだ。
彼等には伝えないが、宇宙船やコロニーで使われている技術の一部はキラの父が特許を持っている。可愛がっている娘がこのような目に遭っているとわかれば笑顔でそれを実行するだろう。
「ついでに言えば、あの赤毛のお嬢ちゃんはアルスター次官の娘だそうだ」
そちらから抗議が来る可能性もあるな、と視線をそらすことなく続けた。
「ですが……自分は間違えたことをしたとは考えていません」
ここまで頑なだと逆に感心する。
「では、上官として命じます。彼女の拘束を解きなさい」
キラはザフトの軍人ではなくオーブの民間人だ。そうである以上、バジルールの行為は許されることではない。
「それとも、あなたが営倉に入りますか?」
ラミアスがきっぱりと言い切った。
「命令であれば従いますが……後日その判断を後悔することがなければいいですね」
彼女は吐き捨てるように言葉を口にすると踵を返す。おそらくキラの元へ行くつもりなのだろう。
「マードック、悪いが……」
「わかってまさ。確認してきます」
最後まで言わなくてもわかってくれる相手というのは、一緒に仕事をしていてありがたい存在だ。しかも、彼はコーディネイターに偏見がない。それはきっと、モルゲンレーテの技術者を知っているからだろう。
「これであの嬢ちゃんのことは大丈夫だが……」
「……わかっています。ただでさえ私の失態で彼等の好意はマイナスなのに」
さらに追い打ちをかけてしまった。ラミアスはそう言ってため息をつく。
「彼女が有能なのはわかっているんだがな」
ため息とともにムウはそう言う。
「どうしても『コーディネイターは危険』と言う認識を改められないようだな」
間違いなくこれからも衝突が起きるだろう。そのたびに彼等がこちらに抱く印象は悪化していくのではないか。
「一番いいのは、ここいらで早々に彼等を解放してやることだろうな」
地球軍のシャトルであろうと、カナードであればオーブの信号に書き換えて運用することが可能ではないか。そして、オーブ軍と合流するだろう。
そうすれば、少なくとも自分たちはオーブを敵に回すことはなくなる。
「……それは難しいと思います」
しかし、ラミアスはその考えを否定してくれた。
「彼等はあれを見ていますから……」
ヘリオポリスが崩壊と言うあの事態があったからこそ、自分も彼等を探すことをあきらめたのだ。だが、偶然でも彼等は自分たちの手元にいる。そうである以上、ここから逃がすわけにはいかない。
いや、逃がしたくても逃がせないだろう。
「……困ったもんだな」
どうするか。ムウは心の中でそうつぶやいていた。