この照らす日月の下は……
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この再会はお互いにとって不幸だとしか言えないのではないか。
「そもそも、何でポッドを拾ってきたんだか」
あきれたようにカガリは言う。
「助けられておいてその言葉はなんだ?」
「何の罪もないのに狙撃してくれた相手を目の前にして感謝の言葉を言えと? そもそも、お前らの仲間が避難していた俺たちを追い出さなければここにいなくてすんだんだが?」
証拠もあるが確認するか? とカナードが言い返している。
「いっそ、全世界に流してどちらが悪いのか決めてもらってもいいな」
さらに彼はこう続けた。
「あぁ、それはいいな」
カガリが即座に同意をする。
「そのくらいならお手伝いできます」
「俺も」
「アタシも出来るわ」
「もちろん、俺も出来ます」
さらにキラの友人達も口々に同意の言葉を綴った。それに周囲の連中の表情が変わる。
「サハクとして正式に抗議をさせてもらってもいいが?」
そちらの方が効果は大きいか、とカナードはつぶやく。
「溺愛しているキラを傷付けられたんだ。あのお二人はもちろん、御当主もお怒りになるだろうな」
カガリもそう言って大きく首を縦に振っている。
「キラはサハクの一族の中でも特別だそうだし」
サハクという一族は五氏族の中でも特異な継承を行っていると言っていい。
氏族の子ども達の中で有能だと思える子どもを次世代の当主として教育し、その中で一番優れたものがその座を継ぐ。
今ではそれはコーディネイターであることが多い。それはオーブがどちらの種族も平等としているからだ。
首脳陣がナチュラルだけではコーディネイターの不満がわからないだろう。そう考えてのことである。
現在の光景はあの双子だ。しかし、その後はまだ未定だ。だが、サハクの中では『キラの子どもならふさわしいのではないか』と言う声が出始めているという。それは彼女自身が有能だと言うことと同義でもある。
ただ、彼女の場合、一回り上の世代にあの双子がいるから《当主後継》と言う立場にはなることはないだろう。あの双子に何かあってもカナードがいるというのが周囲の見解である。
もっとも、それをここにいる連中に教えるわけにはいかない。だから、カガリもあの双子の溺愛ぶりを前面に押し出すことにしたのだろう。
「確かに。親族の中で女はキラ一人だからな」
カナードはそれに『ギナの婚約者候補』と言う意味を含ませる。
「誰が見ても、お前がキラを傷付けたのはカガリを撃とうとしてのことだ。それはアスハに敵対すると宣言したことと同義だし」
カナードは再びカガリのアスハでの立ち位置をさりげなく示唆した。
「他にもそれなりの有力者の子弟もいるんだが……」
さて、どうする? と相手をにらみつける。
「そこまでにしておいてくれるとありがたいんだが」
そんな彼等の耳に懐かしい声が届く。
「どう考えても、悪者はこっちだからな。これ以上の失態はしない方がいいだろう」
そう言いながら人混みを抜けて出てきたのはやはり彼だ。
「フラガ大尉」
その瞬間、地球軍側からどこかほっとしたような空気が流れてきた。おそらくそれだけ彼の実力は地球軍の中で認められているのだろう。
「そっちの坊主には見覚えがある。サハクの双子の腹心候補だ。何度か式典で会ったことがある」
しかし、彼はその空気を見事にぶちこわす。
「と言うことは、与太話ではないって事で?」
作業服を着た恰幅のいい男が彼に聞き返している。
「パイロットとしても有能だぞ。戦死したひよっこを指導したのがその坊主だ」
しかし、そのセリフは今は口にしないでほしかった。そう思うのは自分だけだろうか。
「もっとも、これ以上は協力してもらえそうにないがな」
この言葉にあの女性士官が唇をかむ。
「ともかく、だ。オーブの協力を今後も必要とするなら、丁重にもてなすしかないだろうな」
それがこの場で出せる最善の判断だろう。誰もがそう判断したようだった。