この照らす日月の下は……

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 両親が本土に戻っているから、自宅には今、キラは一人だ。
「行ってきます」
 それでも家を出るときにこう口にするのは習慣になっているからだろう。だが、誰の声も返ってこないのは、やはり寂しい。
「引き留められているのかな」
 それとも別の理由なのか。
 だとしても、危険なことではないだろう。
 キラはそう判断している。もし両親や自分に危険が迫っているのであれば、サハクから連絡が来ないはずがないのだ。
 だから、両親が戻ってきていないのは別の理由からだろう。
「一言、連絡してくれれば安心できるのに」
 それでも、と思いながら言葉を口にした。
「でも、今は仕方がないのかな」
 ラクス達と出会ってからもう十三年近く経っている。アスランと別れたのも四年も前の話だ。
 それからしばらくは二人とも連絡が取れていた。しかし、今はメールを送ることも出来なくなっている。一般の人間が使う回線は途中で地球軍に邪魔をされているらしいのだ。
 さすがに国家間の回線はまだ生きている。軍部でも特別な中継路をしようして連絡を取っているようだ。もっとも、それもだんだん時間がかかるようになってきたとカナードがぼやいていた。
 それだけではない。最近はオーブ本土とコロニーとの間の通信にも時間がかかるようになってきているという話もある。ハルマが本土に戻ったのはその調整も関係していたはずだ。
 だとするならば、そちらに時間がかかっているのかもしれない。
 きっとそうに決まっている。
 自分に言い聞かせるようにキラは心の中で繰り返す。
「後でカナード兄さんにメールしておこう」
 あちらにはまだ一日遅れぐらいで届く。そこからサハクを通じて調べてもらえるはずだ。そして、その結果を教えてくれるに決まっている。
「そうしよう」
 やるべき事が決まったことで心が軽くなった。それだけではない。足取りまで軽くなったのには苦笑が浮かんでくる。
 それでも、今までの何をしていいのかわからない時間よりマシだ。そう考えながらカレッジへの通学路を進んでいった。

 カナードへのメールを送信し終えると、キラはモニターにニュースを呼び出す。
「MS、か」
 そこにはザフトが開発したという人型の軌道兵器が映し出されている。自分たちも──目的は違うとは言え──二足歩行のワークマシンを開発しようとしている。だから、あれの制御系がどれだけ複雑なのか理解しているつもりだ。
 これが安全な場所での作業だけならば、多少の不具合があっても問題はない。園まで修正をすればいいだけのことだ。
 しかし、戦場では違う。
 修正をするための一瞬が命取りになりかねない。
 それでも実戦に投入できていると言うことは、制御系はほぼ問題がないと判断されたのだろう。
 もっとも、とキラは小さなため息をつく。
 それらはすべてコーディネイターの身体能力があって実現できているのではないか。
「……コーディネイターもナチュラルも使えるシステムじゃないとダメだよね」
 自分たちが新たな大地を得るためには、とキラはつぶやく。
 そのためには何が必要なのか。
「やっぱり、動作を補助するためのシステムかないとダメかなぁ」
 すべての動作をあらかじめ登録しておいて、必要に応じて操縦者が望む動きを呼び出せるようにしておけばナチュラルでも十分使えるだろう。
 それはわかっている。
 わかっていても作りたくないのは、それが戦争にも流用できるとわかっているからだ。
 戦局は現在拮抗している。それは地球連合の数の有利をプラント側がMSを運用することで打ち消しているからに他ならない。
 だが、ナチュラル──地球連合もMSを運用するようになったらどうなるか。
 シミュレーションをしなくても簡単にわかる。だから、キラも会えてそれを仲間に提案していない。
 オーブだけで運用すれば言いと言われるかもしれない。だが、一度表に出してしまったものはどのような手段を執ったとしても流出は避けられないのだ。そのこともキラはしていた。
 それでも、脳内で組み立てるだけならばかまわないだろう。
 心の中でそうつぶやくとキラは視線をモニターに戻す。
「キラ!」
「何を見ているんだ?」
「ミリィ、トール」
 その時だ。背後から声がかけられる。
「ニュースだよ」
 ザフトがまた支配区域を広げたって、とキラは続けた。
「そう」
「……まぁ、俺たちには遠い世界だな」
 トールがそう言う。
「そうかな?」
 自分の友人にはプラントのものもいる。彼等がモニターの中にいないとは限らないのだ。
「そうだよ。オーブは中立だろう?」
 トールはそう言って笑った。
「そうよね」
 彼の言葉にミリアリアもほっとしたような表情を作る。どうやら彼女を安心させるために彼はそう言ったらしい。
「そうだといいね」
 キラはそう言うとモニターに映し出されていたニュースを消した。


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最遊釈厄伝