この照らす日月の下は……
38
久々にラクスからのメールが届いた。それからは母親を失った悲しみだけではなく前に向かって歩き出そうとする様子が伝わってきた。
「ラクスは大丈夫だね」
悲しみの中だけに沈んでいないなら、とキラはつぶやく。
カリダもそうだ。
まだ時々寂しそうな表情は見せることはある。だが、同じくらい笑顔を見せるようになっていた。
カナード曰く『悲しみは消せないが思い出には出来る』のだそうだ。彼らしくないセリフだなと思えば、ラウが教えてくれたものらしい。その瞬間、納得できてしまった。
「ラウ兄さんっていろいろなことをよく知っているよね」
素直にそう告げれば、カナードが頬を膨らませていた。
「兄さん?」
どうしたの、とキラは首をかしげる。
「……お前はラウが大好きだよな」
「兄さんも大好きだよ。ただ、ラウ兄さんはご本をよく読んでくれたから」
カナード達みたいに暴れるのは苦手だし、とキラは彼に告げた。
「それは確かにラウの役目だったな」
言われてみれば納得、とあっさりとうなずく。
「お前は女の子だし、確かに危ないことはしない方がいいか」
「……危ないこと、しているの?」
彼の言葉にキラは思わず目を丸くする。
「軍の訓練が危なくないはずないだろう?」
銃やナイフ、最後にはMAを使うことになるのだ。カナードはそう言う。
「そう言われてみれば、そうだね」
「俺はあの双子の護衛になる予定だからな。今から少しずつでも訓練しないと。おかげであれを取り押さえるのに役立っているけど」
「あれって、アスランのこと?」
「他に誰がいる?」
あっさりと肯定する彼にキラは苦笑を浮かべるしかない。
「最近、あいつにも力がついてきたからな。キラも少しは護衛術を覚えた方がいいかもしれない」
押さえつけられたら逃げ出せなくなる可能性がある、とカナードは顔をしかめる。
「俺がすぐに駆けつけられればいいが、そうじゃないときに困るからな」
万が一のことになってはまずい、と彼はさらに言葉を重ねた。
「……万が一のこと?」
何、とキラは首をかしげる。
「実力行使でお前をプラントに連れていくとかだ。まぁ、その前にサハクが動くだろうが……あいつならやりかねん」
さすがにオーブとプラントの関係が悪化するのはまずいだろう。そう言われてきてもうなずく。
「とりあえずクライン議員からさりげなく釘を刺してもらえるよう、御当主様に頼んでみるか」
本人は無理でも親から手を回せばなんとかなるだろう。
「あいつにしても、いつまでもこちらにいられるわけじゃないしな」
この言葉にキラは表情を曇らせる。
「月からお引っ越ししないとダメ?」
「今すぐじゃないが、近いうちにそうなるだろうって言うのがミナ様の予想だ」
彼女がそう言うのであればそうなのだろう。そして、その時はカナードはアメノミハシラに戻るのではないか。
「寂しくなるね」
「まだ先のことだ。その時は別の友達が出来るかもしれないしな」
あれのような独占欲の塊ではなく、とカナードは付け加える。
「そうだといいけど」
キラは小さな声でそうつぶやく。
「出来るだろう。あいつが追い払わなくなるだけでも十分だ」
断言されても困る。キラは心の中でそうつぶやく。
「女の子の格好できればいいな」
やはりそろそろ可愛い服を着てみたい気がしてきた。
「それも大丈夫だろう。オーブの人間しかいないところならな」
「ならいいけど」
キラはようやく、少しだけだが明るい気持ちになれたような気がした。