この照らす日月の下は……
24
アマノミハシラでの生活は月とは全く違った。もちろん、ある程度は予想していたが、ここまで違うと逆に困惑しか感じないと、キラはこの時初めて知った。
「……だって、女の子の格好はしちゃダメって……」
一番違ったのは服のことかもしれない。
確かに、クラスメートやラクスが着ているようなワンピースやスカートにはあこがれた。しかし、自分が『女の子だ』とばれては両親までも危険になる。だから、と我慢していたのだ。
「月ではの。ここにいるのはサハクの者だけよ。あれらが他に漏らすわけがない」
「姉上の言われる通りよ。だから、たまには良かろう」
ギナもそう言ってうなずく。
「キラがここにいると知られない方がいいかもしれないし」
さらにラウまでもがこう言ってくる。
「……そうなの?」
「あぁ。そこの二人の本性を知らない者達とか、利権だけを手に入れたい者達とかが、そのとっかかりとして君たちのところに押しかけかねないね」
他人の迷惑を考えない連中はこれだから困る、と彼は続けた。
「パパとママが困るの?」
自分がこのままだと、とキラはまっすぐにラウを見上げる。
「そうならないように御当主様が手を打ってくださるよ」
「難しいことは養父どのに任せておけば良い」
さらにギナが口を挟んできた。
「キラも考えてもわからないのであれば……そうよの。我らの目を楽しませるためと思えば良かろう」
さらに彼はこう言って笑う。
「姉上には似合わないようなかわいらしい服を着たキラが見たいからの」
顔立ちの系統が違うから仕方がないのだが。そう続ける彼にラウもうなずいている。
「こいつはこんな顔をしてかわいらしいものが大好きだからな」
ムウがそう言ってギナの肩をたたく。
「人の趣味に口を出すでない」
可愛いものをさらにかわいらしくして何が悪い、とギナが言い返す。
「どちらでも良かろう」
あきれたようにミナが口を開く。
「キラがどのような服を着ようと、それはキラの自由。ただ、私としてはたまには女の子の服を着るのも良かろうと思うがな。お前の友人もそれを見れば喜ぼう」
知っている者もいるだろう、と彼女は微笑む。ラクスのことは報告していたのだ。
「……大丈夫?」
ラクスにメールをしても、とキラは問いかける。
「かまわんぞ。あぁ、ハルマ殿達には帰るまで内緒にしておけ」
彼女はそう言って笑った。
「はい」
皆がそう言うのであれば大丈夫だろう。キラはほっとしてうなずく。
「よい子だな」
素直で、とミナは満足そうに目を細める。
「この十分の一でもよいからカナードにかわいげがあれば良いのだが」
そのまま彼女はそう続けた。
「無理だの」
「不可能ですね」
ギナとラウが即座に言葉を返してくる。
「こればかりは持って生まれた性格と環境の影響があるからな」
もっと小さければ可能だったかもしれないが、とムウもうなずく。
「俺は男だからいいんです!」
カナードのその声に同意を示してくれる者は誰もいなかった。