この照らす日月の下は……
21
帰ってきたキラからの話を聞いて、カナードは『やはり』と思う。同時に、先の予定を入れておいて良かったともだ。
とりあえず、キラをカリダのところに行かせてから報告書というメールを打ち込む。その間にも微妙に怒りがわき上がってくる。
「……キラを『プラントに行かせるな』って言われているし」
自分もせっかくならずっとキラと一緒にいたい。だから、と思っていたのだが。
「ここまで想像通りだと逆に感心するな」
キラが拒否してもだだをこねているらしい。それも、表面上はわかった振りをしてだ。
「あの子に執着する理由がわからないわけじゃないけど」
しかし、だ。
だからといってあの子の意思まで縛るのはおかしい。
今はまだ子どもだから自分だけの力で何かをすることは難しいだろう。
しかし、五年後や十年後ならばどうだろうか。
あれは無駄に有能であるから困る。
「キラならば丸め込まれることはないと思うが、外堀から埋められてはまずい」
あいつの歓心を買うためにキラを人身御供にしようと考える馬鹿が出てくる可能性だってある。
「難しいな」
今の自分もある意味アスランと同じで、自分のために使える力はない。
「まぁ、そのあたりは年長者に押しつけよう」
自分は自分に出来ることだけをやればいい。カナードはそうつぶやく。
「ご飯出来たって」
ノックの音と共にキラの声が耳に届いた。
「わかった。今行く」
メールは一応書き上がっている。ただし、怒りのあまりかなりまずい表現があちらこちらにあるのだ。
これを見れば彼等がどのような反応を示すか想像には難くない。
だが、それはアスランの自業自得だろう。そう判断をしてカナードはさっさと送信した。
「今日のメニューは何だって?」
そのまま立ち上がるとドアの方にこう問いかける。
「ハンバーグ」
カナードが顔を出したところでキラはこう言った。
「やった!」
カリダが作ってくれるハンバーグはふわふわでしかも肉汁たっぷりなのだ。アメノミハシラで食べるそれよりも何倍もおいしい。
だから、カナードは良くリクエストをしているのだ。もっとも、なかなかテーブルに出てこないのだが。
それが出てきたと聞いてうれしさを隠せない。
「僕はロールキャベツの方が良かった」
しかし、キラにはそれよりも食べたいものがあったのか。少し不満顔だ。
「お前はまた作ってもらえばいいだけだろう?」
自分とは違ってずっとカリダ達と一緒にいるのだから。そう言いながらキラの頬をなでる。
「でも、一緒に食べたかったの」
キラはそう言う。
「ママのロールキャベツはとってもおいしいから」
この言葉の後にカリダのロールケーキがいかにおいしいかをキラは力説する。
「本と、可愛いな、お前」
それだけで先ほどまでアスランに対して抱いていた感情がきれいさっぱりと消えていく。
「でも、今日はハンバーグだな」
自分が大好きだ、とそう続ける。
「……明日はロールキャベツにしてもらう」
妙なところでキラは頑固だ。だから、ある意味安心なのだが、とカナードは心の中でつぶやく。
「そうだな」
言葉と共にキラの肩を軽くたたく。それを合図に二人はダイニングへと向かう。
間違いなくキラの声が聞こえていたのだろう。カリダが苦笑を浮かべながら二人を待っていた。