この照らす日月の下は……
15
自分用の端末を開けば、メール着信の表示が出ている。
「キラからですわ」
嬉しい、とラクスは素直に微笑む。そしてすぐにそれを開いた。
だが、彼女の眉根はすぐに寄せられる。
「ラクス。そんな表情をすれば変なしわがつくわよ」
それを見とがめたのだろう。母がそう声をかけてきた。
「キラが」
振り向きながらラクスは口を開く。
「困っていらっしゃるそうですわ。押しかけ友人のせいで」
キラの話を聞かないのは問題だろう。ラクスはそう続ける。
しかもだ。
「その方はザラ様の子どもだそうです」
この言葉を口にした瞬間、母の口からため息が漏れた。
「また、レノアが研究に熱中しすぎてアスランくんを放置しているのね」
そしてそのしわ寄せがカリダにいっているのか。そう彼女はつぶやく。
「だから、おとなしくシッターを雇えばいいのに」
困った人ね、とため息と共に母は付け加えた。きっと、そういうことまで気が回らないのだろうとも。
「カリダは優しいから、アスランくんが一人でいると知れば放っておけないでしょうしね」
しかし、そのしわ寄せがキラに行くのは違うのではないか。
「キラが本当に困っているのは、アスランがキラのやりたいことをすべて先回りしてしまうからだそうです」
「それはまずいわね」
キラにはキラなりのタイミングがあるだろう。それを奪われてはキラの成長に関わるのではないか。
「カリダにこっそりと忠告しておくしかないわね」
レノアは話しても伝わらないだろうから、と母はいう。
「キラちゃんも巻き込まれて大変ね」
「全くですわ」
選ぶなら他の誰かを選べばいいのに。心の中でそうつぶやいてしまうラクスだった。
「やはりの」
小さなため息と共にギナがそうつぶやく。
「何かあったの、ですか?」
彼には『敬語を使え』といわれていたのを思い直して慌てて語尾を修正する。
「いいにくそうだの」
「敬語は面倒くさい」
「あきらめるのだな。今のうちに覚えておけば、後々楽だ」
ギナの言葉にため息だけ返した。
「キラは出来るぞ。お前はあの子より年上なのにな、カナード」
苦笑と共にそう付け加えられて、カナードは頬を膨らませる。
「だが……良いかもしれんな」
そんな彼へと視線を向けると、彼はいきなりこんなセリフを漏らす。
「何だ、じゃなくてなんですか?」
「詳しいことは養父殿と姉上に相談してからだな。あぁ、ムウ達も呼んでこい」
本当にいったい何なのか。そうは思うが彼の言葉を無視できないというのも事実だ。渋々カナードは言われたとおりムウ達を呼んでくる。
「……何があったんだ?」
部屋に入ると同時にストレートに問いかけられるムウが少しだけうらやましい。
「案の定、キラがあの子どもに振り回されているらしい。カリダ殿の前では猫をかぶっておるようだがな」
キラがやりたいことを出来ない状況だ、と彼は続けた。
「そういうわけで、それをしばらく月に行かせてはどうかな、と思うのだが」
思い切り二人の間に割り込んでくれそうだ。笑いながらそう言われたのは気に入らないが否定できないと自分でも思う。
「……キラが困らぬか?」
「大丈夫であろう。これもキラにだけは甘いからの」
それに、とギナは続ける。
「たまにはアメも必要であろう?」
「……そうだな。これからはラウのことで忙しくなる。カリダどのには悪いが、カナードを預かってもらおうか」
もっともあちらの許可がもらえたらだが、とそう言ったのは当主であるサハクだ。
「お願いします」
キラのところに行けるならば、とカナードは素直に頭を下げた。