この照らす日月の下は……
08
「やはりキラのところにいたか」
入り口の方からあきれたような声が響いてくる。
「ミナに『ギナが抜け駆けしていた』と伝えてくれ」
さらにその声はそう続く。
「ムウか。話し合いは終わったのか?」
「とっくにな。誰かさんがとんずらしてくれたせいでミナのご機嫌が悪いぞ」
「それは申し訳ないことを。だが、我はキラが寂しがっていないかの方が気に掛かってな」
実際、一人であれこれと悩んでいたようだ。彼がそう続ければムウがため息をつく。
「だからあれを連れてこいと言ったのに」
そのままそうはき出す。
「仕方があるまい。ラウは今一番忙しいからの」
その言葉にキラは首をかしげた。
「ラウ兄さん、どうかしたの?」
そして『聞きたいことがあるならいつでも聞け』と言われた言葉通り、キラは素直に疑問を口にする。
「あいつは今度、プラントに留学することになったんだよ。その準備があるからな」
そうすればムウがあっさりと教えてくれた。
「プラント?」
「あぁ。あいつもコーディネイターだからな」
それを言うならばミナもギナもだ。しかし、二人はサハクの跡取りだから除外されたのだろう。そのくらいのことはキラでもわかる。
カナードや自分ではないのは、まだ世話をしてくれる人間が必要だからだ。
「……ラウ兄さん、プラントに行っちゃうんだ……」
それでもなかなか会えなくなるのは寂しい。
「セイランがうるさいからな」
キラもオーブの五氏族の家名は知っている。だからセイランもわかるのだが、それとラウがプラントに行かなければいけないこととが結びつかない。
「ラウ兄さんはサハクだよね?」
それなのに、どうしてセイランが出てくるのか。そう続ける。
「キラにはまだ早いか」
「……簡単に言えば、自分たちの身内は行かせたくない。だが、プラントの情報は欲しい。だからサハクのことに口を出してきたというところだな」
ギナが苦笑を浮かべるとムウがこう教えてくれた。
「まぁ、お前はラウが『国の仕事でプラントに行く』とだけ覚えていればいい」
そう言うとムウはキラの髪をなでてくれる。
「と言うわけで、今のお前の仕事はミナの機嫌をとることだな」
そのまま彼はギナの膝の上からキラの身体を抱き上げた。
「しかし、キラは軽いな。もう少し太ってもいいんじゃないか?」
ムウがそう言って眉根を寄せる。
「何。今はそのくらいでかまわぬであろう?」
即座にギナがそう言い返す。
「すぐに大きくなる。カナードがそうだったからの」
されに彼はそう付け加えた。
「あぁ……あいつはな」
俺たちに嫉妬してどうするんだか、とムウが笑う。
「いくら頑張っても、俺たちの方が年上だという事実は変わらねぇのにな」
「確かにの。だが、面白いから放っておけ」
「面白いのは否定できないが……いちいち突っかかってくるのがうざい」
「あきらめるんだな」
こんな会話を交わしながら彼等は歩き出す。もちろん、ムウはキラを抱えたままだ。
「カナード兄さんとムウ兄さん、仲が悪いの?」
この会話から推測してキラは顔をしかめる。
「いや、仲はいいぞ。ただ、カナードが一方的に俺をライバル扱いしているだけだ」
「あやつにも色々とあるのよ。触れてやるな」
ムウの言葉の後を引き受けるようにギナも口を開く。
「お前にもそのうちわかろう」
そう言うものなのだろうか。だが、二人が嘘を言うとは思えない。そう考えてキラは小さくうなずいて見せた。