「ラクス……」
 小さなため息とともにキラは口を開く。
「僕は護衛として付いてきたんだよね?」
 それなのに、どうしてここでファッションショーを繰り広げなければいけないのか。言外にそう問いかける。
「でも、ここまで不埒ものが侵入できるはずがありませんわ」
 満面の笑みと共に彼女はこう言い返してきた。
「ですから、わたくしの気分転換に付き合ってくださいませ」
 そう言いながら、別の一着を取り上げる。
「そうそう。気分転換は大切よ」
 くすくすと笑いながら、アイシャも口を挟んできた。女性としてみてもうらやましいとしか言いようがないプロポーションを隠すことなくさらしている彼女に、キラは圧倒されてしまう。
 もっとも、これはダコスタ達が彼女に頭が上がらない理由とは違うのだろうが。
「と言うことで、どうせなら、これも着せてみない?」
 似合うと思うんだけど……と言いながら、アイシャが服を差し出してくる。それは、彼女が身につけているものよりも少しマシ、と言ったデザインだった。
「無理です!」
 とっさにキラは叫ぶ。
「僕、スタイル悪いですから!!」
 ここにはアイシャだけではなく、ラクスもいる。それに、外にはミゲル達もいるのだ。
 そんな人たちの前で、自分の凹凸のない体なんてさらしたくない。
 本気でキラはそう叫ぶ。
「そんなことはないわよ」
 ねぇ、とアイシャは視線をラクスへと向けた。
「えぇ。そうですわ、キラ」
 もっと自信を持ってもいいのだ、とラクスは微笑む。
「それに、以前、ミゲル様がキラのために選んだ服も、それと似たり寄ったりですわよ?」
 あれがにあっていたのだ。だから、これも似合うに決まっている……と彼女は言い切る。
「……あれもかなり恥ずかしかったんだけど……」
 キラはそう言いながら、さりげなく後ろに下がった。
「あら、そうですの?」
「ミゲル、と言うと、キラちゃんの彼氏ね」
 バルトフェルドには負けるが、なかなか好青年ではないか。アイシャはそう言って目を細める。
「なら、なおさら着替えないと」
 可愛いところを見せてあげないとね。そう言いながら、アイシャはあっさりとキラを捕まえる。
「そうですわよ、キラ様」
 さらにラクスが言葉とともにキラが身につけている衣服を脱がし始めた。その手際の良さは、いったい、どこで身につけたのだろうか。
「二人とも、やめてってば!」
 キラの悲鳴だけがむなしく響いていた。

 キラの叫びはバルトフェルドのいる部屋まで響いてきていた。
「……大丈夫か、キラ……」
 思わず、ミゲルはこう呟いてしまう。
「まぁ、殺されるような状況に置かれているわけではないから、安心したまえ」
 彼女たちが本気で遊んでいるのだ。自分たちが口を挟むことは出来ない。そう彼は続ける。
「それはわかっていますが……」
 そんなことをしたら、キラには感謝されるだろうがラクスの反応が怖い。ミゲルは素直にそう続ける。
「アイシャも怒り狂うだろうね」
 自分も考えたくない、とバルトフェルドも苦笑を浮かべながら続けた。
「キラ君の機嫌は、他のことで採ることを考えるしかないか」
 言葉とともに、彼は手にしていたカップをミゲルの前に置く。その中には当然のように彼がブレンドしたコーヒーが入っている。
「君はあまり苦いのは苦手なようだからね。そちらの方は控えてみた」
 満面の笑みと共に彼はそう続けた。
「……ありがとうございます」
 自分は、どうせならキラが淹れてくれるコーヒーが飲みたい。そうは思うが、彼にそう告げるわけにはいかないだろう。
 ともかく、諦めて飲むしかないか。
 そうかんがえると、ミゲルはカップに手を伸ばした。



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