キラがあちらこちらに連絡を入れている。だけではなく、ラスティも同じような行動をとっていた。
「……しつこいな」
 とりあえず、連中を何とかするにしても、穏便な――というのは難しいかもしれないが――方法をとらなければいけない。そのためには、権力を持っている人間を担ぎ出すのが一番ではないか。
 もっとも、強引に物事を進めようと思えばいくらでも出来た。
 自分の母はもちろん――両親は離婚していて、母方に引き取られているとはいえ――ラスティの父も最高評議会議員なのだ。正式に、そちらか抗議させることも出来るだろう。
 だが、そのためには連中に掴まるわけにはいかないのだ。
「……このまま真っ直ぐに行くと、モルゲンレーテか……」
 あそこに行くのはまずいのではないか。
 かといって、この道はしばらく分岐点はない。
「ひょっとして、追い込まれたのか?」
「いや。大丈夫だって」
 小さな声で呟いたイザークの耳に、ラスティの明るい声が届く。
「この先に、地図には載ってない道があるんだよな?」
 そのまま確認を求めるかのようにキラへと視線を向ける。
「あるのか?」
 そんなものが、とイザークも一瞬だけ彼に視線を送った。
「うん……でも、あそこは、行き止まりだよ?」
 だから、地図にも載ってないんだけど……とキラは続ける。
 それでは使えないだろう。そうイザークが怒鳴りつけようとしたときだ。
「確かに行き止まりだけどな。その先には何があるか、覚えてるか?」
 ラスティはさらに笑みを深めるとこう告げた。それに、キラも考え込むような表情を作っている。
「……あっ……」
 だが、すぐに何かに気が付いたのか、小さな声を上げた。
「そう言うこと」
 だから、そこに逃げ込んで貰った方がいいんだよ……とラスティは笑う。
 しかし、イザークにはまったく意味がわからない。
「何を言っているのか、説明をしろ!」
 自分だけ阻害されているような気がするのは錯覚だろうか。だからといって、面白いはずがない。思わずこう叫んでしまう。
「要するに、その先には――多少障害はあるが――プラントの関係機関があるわけ」
 そこに転がり込めば、外交官特権が使える。しかも、最短距離なんだよな……とラスティは口にした。
「多分、ディアッカ達ももう着いているんじゃないかな?」
 途中でエレカを乗り捨てても、後は連中が何とかしてくれるって……と彼はさらに付け加える。
「現在、最優先すべきなのは、そいつを保護することだしな」
 あそこであれば、自分たちのワガママも通るぞ……と付け加える彼に、イザークも苦笑を禁じ得ない。要するに、表向きはともかく、実質はザフトの関係機関、と言うことなのだろう。
「なら、そこにするか」
 分岐点に来たらすぐに合図をしてくれ、と口にする。
「リョーカイ」
 即座にラスティは指を立てながら言葉を返してきた。
「それよりも、後ろの連中に気付かれるなよ?」
「わかっている」
 道からそれた瞬間、何をされるかわからない。ここはまだ、周囲に一般人のものとおぼしきエレカがいる。下手に通報されると厄介だ、と思っているのだろう。
 しかし、それがなくなったらどうなるか。
 それは考えなくてもわかるだろう。
「……こういう事は、ディアッカの方が得意なんだぞ」
 だからといって、出来ないわけではない。
「ディアッカの場合、同乗者が死にかけるだろうが」
 あいつの運転は無謀なんだ、とラスティが口にしたのは、キラに聞かせるためだったのではないか。
「だが、俺でも似たようなものかもしれないぞ」
 こう言いながら、急ハンドルを切る。
「……あいつらも、なりふり構っていられなくなったのか?」
 どこからか、制止の命令が出てきたのかもしれないな、とラスティが呟く。
「……ミナさまに連絡が取れたから……」
 キラがおずおずとした口調で口を挟んでくる。
「でも、すぐには動けないから、逃げ回っていろって……」
「わかった」
 確かに、根回しの時間は必要だろう。そう考えてイザークは頷いてみせた。
「と言うことで、後百メートル行ったらハンドルを左、な」
 次の瞬間、ラスティがとんでもなセリフを口にしてくれる。
「そう言うことは、もっと早くにいえ!」
 言葉とともにイザークは前方を見据えた。確かにそれらしいものが確認できる。
「しっかり掴まっていろ!」
 この言葉とともに、イザークは思いきりハンドルを切った。