アスランの反対は、その後も続いた。それでも、キラは自分のカナードに対する気持ちを変えるつもりはなかった。 アスランは必死にキラの気持ちを翻そうと頑張っていたが、ラクスの応援もあってそれに関しては受け流すことができていたと言っていい。 そうしているうちに、世界は戦争への道を進み始める。 その中で、キラとアスランの道は大きく別れてしまった。 「……アスランにとって、やっぱり、自分の基準が一番なのかな……」 自分だけではなくカガリにまでそれを押しつけるとは思わなかった、というのがキラの本音だ。現状で彼の言葉に従えばどうなるかぐらい想像が付くだろうに、とも思う。 いや、あるいは彼は自分自身の判断に対する自信を失いかけていたのかもしれない。 だからこそ、デュランダル議長の言葉に従ったのか。 彼の言葉には毒がある。だが、その毒が心地よく思える者達も確かに存在しているのだ。しかし、アスランまでもがそうだとは思わなかったが。 「……僕は、また彼と戦わなきゃないのかな……」 こう言うときに、カナードが側にいてくれれば力強いのに。ふっとそんな考えが心の中をよぎっていく。だが、今彼がここにいれば、自分はきっとすがりついて動けなくなる。だから、とキラは唇をかみしめた。 「キラ様!」 そんな彼の耳に先日合流したばかりのオーブ軍人の声が届く。 「ここです。何か?」 言葉を返せば、真っ直ぐにきらのもとへと駆け寄ってくる。 「申し訳ありません。マードックチーフが呼んでおいででしたので」 「マードックさんが? わかりました。今行きます」 呼び出してくれればいいのに、と思いながらキラは歩き出す。その後を当然の顔をして彼が付いてきた。 その後も、いろいろあった。 それでも何とか自分たちはデュランダルの野望を打ち砕くことができた。 「……まったく無茶をしたものだな」 終戦処理に追われていたキラの元に不意にカナードが訪れた。 「カナード!」 どうしてここに、とキラは目を丸くする。セキュリティが働かないことに関しては当然だと思っていたから驚かないが、前触れのない訪問は別の意味でびっくりしたと言っていい。 「まったく……あの場ではあいつが先に引き金を引いたからいいようなものの……まぁ、その前に俺が撃っていただろうがな」 ゆっくりとキラの方に歩み寄ってきながら、彼はこう告げる。 「……カナード……」 ひょっとして、彼は自分が気付かないところで守っていてくれたのだろうか。そう思いながら、彼の顔を見つめる。 「お前は決意をしたらそのまま突っ走るたちだからな。それはしかたがない」 そのフォロー程度は自分でもできる……とカナードはキラを抱きしめながら口にした。 「だから、お前はお前の思うとおりに進め」 言葉とともに彼の唇がゆっくりと下りてくる。それを、キラは瞳を閉じて受け止めた。 様々な話し合いの結果、キラはプラントに行くことになった。ザフトという組織の改革のために手を貸して欲しい、とラクスが言ったのだ。 もちろん、それに関してはオーブ軍から反対の声が上がったことも事実。それをカガリがねじ伏せた。 「いずれ、オーブ軍でもザフトでもない第三の組織が必要だろう。その時のために、キラを貸し出すだけだ」 この一言でみなが納得をしたのだ。だが、それでいいのか、と思わずにはいられない。 しかし、この平和が少しでも長く保つためであればしかたがないだろう。そうも考える。 「……何。お前ならできるさ」 こう言ってカナードは笑う。 「そう、かな?」 「そうだ。お前は、今までだって世界を変えてきただろうが」 それに自分も付いているだろう、と口にしながら彼はキラの髪を指先でそうっとすいていく。 「そうだね……僕は、一人じゃないから」 きっと大丈夫だよね、とキラも頷いてみせた。 「それに……」 ふっと何かを思いついたというようにカナードが笑みを浮かべる。 「お前が不安になったときには、ちゃんと背中を押しに来てやるさ」 ついでに、お前の足を引っ張ろうとする奴は、きちんと片づけてやるから……とも。 「だから、お前は前だけを見ていろ」 この言葉はとても嬉しい。でも、とキラは思う。 「ダメだよ。自分のことは自分でやるから……カナードは見守ってくれているだけでいいんだ」 これは自分の戦いだから、といいきる。 「強くなったな、本当に」 その言葉に、カナードは小さな笑いを漏らす。 「まぁ、いい。俺は勝手に動くだけだからな」 そういう問題ではないのではないか。そうは思うのだが、それ以上の言葉は彼の唇でふさがれてしまう。 それも彼らしいけど。そんなことを考えながら、キラは静かに目を閉じた。 |