「あら」
 久々にメールをチェックしてみれば、キラからのそれが届いていた。その事実に、ラクスはふわりと微笑みを浮かべる。
 そのまま中に目を通せば、キラが知り合った人々のことなどが書かれてあった。同時に、ラクス達を気遣うような言葉もある。
「だいぶ、落ち着かれたのですね」
 やはり、あの二人から切り離してよかった。そう思うと同時に、少しだけ寂しさを感じてしまうのは、キラに選ばれなかったからだろうか。
 しかし、相手が彼では何も言えない。
 一目見てわかった。
 彼はキラと同じ存在だと。
 思考や目的ではない。もっと根本的なところで、彼等は同じなのだ。
 だから、キラが彼にひかれたとしてもおかしくはない。
「……だから、わたくしは彼が恐かったのですわ」
 それでも、キラのためにと思えば我慢ができた。
 彼と離れることも受け入れられた。
 そして、そんな自分の判断は間違っていなかったのだ、とメールの文面からも察することができる。
 それだけでも十分だと思えるのに、キラはさりげなく爆弾発言をしてくれていた。
「よろしいのでしょうか」
 このような一言を書いて、カナードにばれたら怒られるのではないか。それでも、嬉しいというのは本音だ。
「期待してしまいますわよ」
 恋愛感情ではなかったとしてもキラが自分のことを『好き』と言ってくれた。そして、側にいなくて寂しいとも。
 それが家族に対する感情だったとしても構わない。
 家族であれば、ずっと一緒にいられるから。そう考える。
「私にとって一番大切なのは、キラの幸せですもの」
 キラが微笑んでいて、それを自分にも向けてくれる世界。それが自分にとって一番の幸せな光景だ。
 そういった意味で、彼の隣に立てないことは少しだけ悲しいが、しかし、我慢できることだ。
 それよりも、カナードがキラを隠して会わせてくれない可能性の方が恐い。
「でも、キラが悲しむでしょうから……それはしないでしょうね、彼は」
 本当は『隠しておきたい』と思っていても、だ。キラの気持ちの方を優先してくれるのではないか。そうも思う。
 いや、そう思いたいだけ……という方が正しいのか。
 でも、キラは自分の元へ帰ってくると言ってくれた。
 今はそれを信じよう。心の中でそう呟きながら、ラクスはメールの画面を閉じる。
「あぁ、あのお二人には知られないようにしないといけませんわね」
 彼等にこのメールのことを知られれば、キラの居場所を調べ上げるためにデーターをよこせ、といわれるに決まっている。それでは、メールの内容まで彼等に知られてしまうではないか。
 これは、キラが自分だけにくれた物。
 だから、自分だけの宝物なのだ。他の誰にも見せるわけにはいかない。
「それに……わたくしはまだ、あなた方のしてきたことを許せませんの」
 キラのためという名目で、自分たちが望む方に彼を押し込めようとしたことが……とラクスは呟く。その結果が、あのキラである以上、なおさらだろう。
「もっとも、今はそれどころではないのでしょうが」
 自分に言わせれば、今まで気が付かなかった方がおかしい。その兆候は、ここから出ることがなかった自分でも気付いたほどなのに。カガリはともかく、アスランが気が付かなかったのは、間違いなく彼の視線が他の所に向けられていたからだろう。
 アスランがただの民間人だったのであれば、何も言わない。そして、カガリも普通の女性であれば、だ。
 しかし、彼等は陰に日向にの差はあれ、国政に関わっている人間だ。そう考えれば、自分たちのことだけにかまけているわけにはいかないことは最初からわかっていたのではないか。
「取りあえず、今しばらく様子を見ましょう」
 自分が口を出すことではない。だからといって、無視をしているつもりはないが。それでも、アスラン達が助けを求めてこないうちは動くつもりはなかった。
「できれば、キラが戻られるまでに事態が収拾に向かってくれればよいのですが」
 それはむずかしいだろう。
 あるいは、いずれ自分たちもこの国を離れなければならない日が来るのではないか。そんなことすら考えてしまう。
 可能性は低いが、用意をしておく必要はあるのではないか。
 そして、あれも……とラクスは考えて小さなため息を吐く。
「ラクス、ラクス、ハロー!」
 それに反応をしたのだろうか。今まで黙っていたハロが声を上げる。
「いらっしゃい、ピンクちゃん」
 言葉とともにラクスは手を差し出す。反射的にハロがその上に飛び乗ってきた。
「大丈夫ですわ、ピンクちゃん。わたくしはわたくしのなすべきことをするだけですもの」
 自分自身の役割を果たすだけだ。こう言って微笑む。
「ハロー! ラクス、キラ、ラクス」
「ピンクちゃんもキラに会いたいのですわね」
 でも、とラクスは笑みを深めた。
「キラは今、とても大切な御用事でお出かけなのですもの。それが済むまでは我慢しなければいけませんわ」
 自分たちは自分たちにできることをしよう、と口にする。それは、自分に向けての言葉だったのかもしれない。
「大丈夫です。キラは必ず戻ってきてくれますわ」
 またあの輝きを身に纏って。
 そうしたなら、自分たちはまた同じ方向へ向けて歩き出せばいい。
 これは自分の権利だ。だから、誰にも渡さない。
「でも、今はみんなとお散歩に行きましょうか」
 子供達が自分を呼んでいる声が聞こえる。だから、とラクスはハロを抱きしめたまま歩き出した。