ちびキラ1



「……ギル?」
 なんなんですか、これは……とレイは視線で彼に問いかける。それだけ信じられない光景が目の前に存在していたのだ。
「見ての通りだが?」
 そんな彼に向かって、ギルバートはしれっとした口調で言い返してきた。そんな彼の態度に、思わず殺意を覚えたとしても誰もレイを責めないのではないか。少なくとも《彼》はそうだろう、と思う。
「だから、どうしてキラさんが子供になっているんですか!」
 ラウにばれたらただではすまないだろうに。言外にそう付け加えれば、ギルバートはさりげなく視線を泳がせている。どうやら彼も、それに関しては気にしているらしい。
 ラウにとって、キラがどれだけ重要な存在なのか。
 それを知らないはずはないのに……と思いながら、レイは説明を求める。
「君達の治療――と言うよりはラウのためか――に役立つのではないか、と実験していた薬があっただろう?」
 現実にはそれよりも確実性のある方法をキラが考案して、それをギルバートが実用化したのだ。そのおかげで、自分たちはこうして生きていられるのだ。だから、キラには感謝などと言う以上の感情を抱いている。
 もちろん、それと同じくらいギルバートは尊敬しているし、自分にとって大切な相手だとも言い切れた。
「それを、キラ君が飲んでしまってね……」
 故意にとは言わないが、ギルが飲ませたんじゃないのか。
 ハハハと笑う彼にレイは思わずこうつっこんでしまう。同時に、彼に対して抱いている尊敬の念を投げ捨てたくなってしまった。
「元に、戻るんでしょうね……」
 ともかく、第一に確認しなければいけないのはこのことだ。そう思って問いかける。
「……多分……」
「多分……?」
 確実ではないのか、とレイはギルバートをにらみ付ける視線をきつくした。
「キラ君は、特別、だからね……」
 どのような副作用があるのか、わからないのだ……と彼は額に冷や汗らしきものを浮かべながら言い返してくる。
「ギル!」
「まぁ……小さくても、キラ君は可愛らしいから……」
「そういう問題ではないでしょう!」
 この男は、やはり一度本気で懲らしめなければいけないのではないだろうか。そのためにはラウに連絡を取る必要があるだろう。レイはそう判断をする。
「キラ君、お膝においで」
 レイの存在を無視するかのように、ギルバートがキラを手招いていた。そんな彼に駆け寄ろうとしているキラの体を、レイはすくい上げる。
「レイ!」
「キラさんは俺が預かります」
 この男にキラを預けておくのは危険だ。タリアに相談すれば、同じ結論を出すに決まっている。だから、自分がミネルバにキラを連れて行こうとそう判断した。
「そんな……」
 だが、ギルバートは諦めきれないようというように手をさしのべてくる。
「キラさんを元に戻す方法を見つけ出したら、本人の自由にして頂きます」
 そんな彼の手をたたき落とすと、レイはキラを抱きしめたまま歩き出した。
「レイ! キラ君!!」
 レイの背中を、ギルバートの情けない声が追いかけてくる。しかし、レイはそれを丁寧に無視したのだった。

 後日、ミネルバでは別の騒動が持ち上がったのだが、それはまた別の話であろう。




次回に続く?
05.10.01 up



 夏コミのペーパー用に書いたSSです。
 これの続きも、一応考えてあります(^^;
 ギル様の立場がない話ですね〜〜