道行き「キラ!」 こう言いながら、アウルが抱きついてくる。 「どうしたの?」 何かあった? とそんな彼に視線を向ければ、笑顔が返ってきた。いや、彼だけではない。スティングやステラも一緒にいた。 「……誕生日……」 彼女の唇からこんな言葉がこぼれ落ちる。 「誕生日がどうかしたの?」 第一、誰の誕生日だというのだろう。目の前の三人のうちの誰かなのであれば、フラガに頼んでお祝いの準備をしてやらなければいけないのではないか、とキラは小首をかしげた。 「キラの誕生日が、もうすぐだって聞いたから……」 だからさ、と言葉を口にしてきたのはアウルだ。 「……そう言えば……そうだっけ」 言われて、初めて思い出した……とキラは呟く。ここに来てから、そんなこと気にかけている余裕がなかったのだ、と。その原因の一端が目の前の三人だという事は否定しない。 「忘れてたのか?」 スティングがあきれたようにこう告げる。そんな彼等に真実を伝えるわけにはいかないだろう。 「……忙しかったから」 キラは小さく呟くとこう告げる。 「そっか……俺たちの訓練に付き合ってくれてたもんな、キラ」 部屋に戻れば戻ったで、ネオの手伝いだろうし……とスティングは納得したように呟く。 「迷惑だった?」 「……俺たちが、弱いからか?」 だから、キラが忙しいのか……と二人が不安そうにキラを見つめている。 「違うよ……きっと、もうじき何かが始まるんだ」 だから、それまでに全てを間に合わせなければいけない。だから、フラガも内心焦っているのだろう、とキラは口にした。 「みんなに、死んで欲しくないから……」 だから、自分にとっては苦ではないのだ……と微笑む。 「でも、僕の誕生日がどうかしたの?」 そしてこう問いかける。 「お祝い」 「キラの誕生日だろう? お祝いぐらいしたいじゃん」 「……だそうだ」 三人がそれぞれこんなセリフを口にした。それはキラがまったく予想したことがないものだ。 「……僕の?」 キラが思わずこう聞き返せば、 「だって、そういう事したことねぇもん」 フラガがそんなことをさせてくれるはずはないし……自分たちは自分の誕生日も覚えていないのだ……とアウルは口にする。だから、キラの誕生日を祝ってみたいのだ、とも。 「みんな……」 彼等がそういう存在として扱われているのは知っていた。だが、それを現実に見せつけられると衝撃が大きい。コーディネイターである自分よりもナチュラルであるはずの彼等の方が地球軍にとっては存在が軽いのだろうか。それとも、自分が知らないだけなのか。 「いい?」 ステラがこう問いかけてくる。 「……みんなが、そうしたいって言うなら……僕はいいよ」 フラガも『だめ』とは言わないだろう。キラはそう判断した。 「でも、あまり無理しなくていいからね」 祝ってくれるという気持ちだけで嬉しい、と口にする。心がこもっていないプレゼントよりも、心がこもっているお祝いの言葉の方が嬉しいから、とも。 「わかってる。この二人が暴走しないようにちゃんと見張っているから」 キラの不安がわかったのだろう。スティングがこう告げる。 「お願い」 フラガが暇であれば見張っていてくれるのだろうが、この時期では無理だ。近くある大きな作戦の結果で、彼等がどうなるか判断されるらしい。だから、少しでも彼等のために部隊を整えてやらなければいけないのだ。 その準備で彼が忙しいことをキラはよく知っている。 部屋に戻ってきても、彼はキラを抱きしめるだけでそれ以上の行為をしてこないのだ。それが、本当に疲れているときのフラガの態度だと言うことをキラは知っている。そんな彼に、これ以上負担をかけたくないのだ。 しかし、彼等にも息抜きが必要だろうとも思う。 「ネオとキラのために、がんばる」 こう言って微笑むステラの姿を見れば余計、だ。 「うん、楽しみにしている」 そんな彼女に向かって、キラも微笑み返した。 「なるほどな……そう言うことか」 仮面をはずしながら、フラガがこう口にする。 「勝手に、許可出してごめんなさい」 確認もしないで……と付け加えれば、 「かまわないって」 こう言いながら、彼はキラを抱きしめてきた。 「本当は、俺が率先してやらなきゃないことなのにな」 そしてそっとキスをくれる。 「わかってますから……もうすぐ、始まるのでしょう?」 何がとは口に出さない。それでも、彼には十分伝わったのだろう。苦笑を返してくる。 「あぁ……キラには、辛いだろうがな」 それでも、自分たちがこうして一緒にいるためにはしなければならないのだ。こう告げる彼の言葉から苦渋の色が見て取れる。 「わかっています……」 だから、死なないでください……とキラは彼の首筋に腕を回す。そして、そっと力をこめた。 「……死なないよ。お前が、きちんとフォローしてくれるだろう?」 だから、大丈夫だ……とフラガは笑う。 「俺たちは、みんなで一緒に、最後まで生き残るんだ。そのために、こうしているんだからな」 だから信じろ……と付け加える彼に、キラは小さく頷き返す。 最後まで、自分は彼の隣にいるのだ。 そして、できれば一緒に逝きたい。それがかなわないなら、自分が先に……とも思う。もっとも、それを口に出すことはない。 「好きです、ムウさん」 その代わりにこう囁いた。 「俺も、愛しているぞ、キラ……だから、どこまでも一緒に行こうな」 それが死出の旅路でも……と付け加えられたような気がしたのは、キラの錯覚だろうか。だが、それが錯覚でもかまわない。少なくとも、彼が自分を抱きしめている腕を話そうとしていないことだけは事実なのだろうから。 「……はい……」 他の人を全て裏切ってでも彼の側にいたい。その思いのまま、キラは小さくうなずいた。 終
05.05.17 up SCC用のペーパーの小話です。宵闇設定ですので、ちょっと中途半端にシリアスです。後編はペーパーに載せられなかったので、リベンジしたいですね。 |