大捏造



「ハイネ!」
 目の前でオレンジ色の機体が爆発をする。
 それも、フリーダムをかばって被弾して、だ。
「……何で……」
 自分をかばったのか。
 グフの実力がどれだけのものかはわからない。だが、フリーダムであれば、被弾したとしても何とかなったのではないか。キラはそう思う。
『キラ!』
 呆然としたまま身動きできない彼の耳に、バルトフェルドの落ち着いた声が届く。
『あのバカは無事だ……脱出したのをとりあえず拾ってある。だから、お前も戻れ』
 その後に続けられた言葉に、キラは小首をかしげる。
「……何故、ですか?」
 何故、この状況で退かなければいけないのか。その理由がわからないのだ。
『インパルスがお前をねらっている。いったん、退くことも戦術的には有効だ、と知っているだろう?』
 それに、と彼は苦笑を滲ませる。
『あれをおとなしくしておくのには、お前の存在が必要だろうからな』
 本当に、困った奴だ……と言いながらも、彼はどこか楽しげだ。
「わかりました」
 こう答えながらも、それは元とはいえ上官に似たのではないか、とキラは思う。
 そして、その上官というのは、今自分と会話をしていた相手だったはず。そんなことを考えながら、キラはフリーダムをアークエンジェルへと向けた。
 その時だ。
 フリーダムへと一機のMSが急接近してくる。その手に握られているのはビームサーベルだろうか。
「……ごめん……」
 おそらく、自分のせいでハイネが撃墜されたからだろう。
 それとも、別の理由からなのか。
 そのMSからは殺意すら感じられる。
 しかし、どうすればいいのだろうか……とキラが考えたときだ。
 もう一機、見知らぬMSがフリーダムとその機体のあいだに割り込んでくる。
『……キラ……』
 次の瞬間、雑音の中から届いたのは、懐かしい声だった。
「アスラン……」
 おそらく、目の前の機体のパイロットは彼なのだろう。しかし、どうして彼がザフトの機体に乗っているのか。それがわからない。
『いろいろと話をしたいが……今は、その時間がない……』
 だから、待避するなら早々に行ってくれ……と付け加える彼に、
「ごめん」
 キラは一言だけ言い返す。そして、アスランの機体がもう一機を抑えていてくれる間に、アークエンジェルへと滑り込んだ。

「坊主」
 ご苦労だったな、とマードックが出迎えてくれる。その側には脱出カプセルらしきものが転がっている。
「中身は?」
 バルトフェルドは無事だと言っていたが、本当なのだろうか……とキラは思いつつこう問いかけた。
 その視線の先に何があるのかわかったのだろう。
 マードックは苦笑を浮かべる。
「少なくとも、口は無事だったようだぜ」
 うるさかったの何のって……と言いながら、彼は肩をすくめた。
「あまりにうるさくて、作業の邪魔なんで……医務室に放り込んでおくように言っておいたが……」
 どうなった、とマードックは周囲のものに問いかける。
「軍医殿に押しつけてきましたぜ」
 即座にこんな言葉が返ってきた。しかも、彼の口調からは笑いが滲んでいる。
「一人じゃ寝られないって騒いでたんですぜ、あれ」
 さすがの軍医どもの苦笑していました〜とさらに脇から声が飛んできた。
「本当に」
 何を考えているんだ、彼は……とキラの中で怒りがわき上がってくる。
「こちらの方は任せておいてもらっていいからな。お前さんは、あのだだっ子を何とかしてこい」
 あの人より若い分だけ厄介だねぇ……と口にしたマードックが誰のことを思い出しているのか、キラにはわかってしまった。
「それこそ、元上官に押しつけたいところですけどね」
「バルトフェルド隊長なら、既にブリッジだ……あきらめるんだな」
 キラのセリフに、マードックが即座にこう言い返してくる。
「結局、僕に押しつけたいんですね、みんな……」
 キラはわざとらしいため息をついて見せた。
「あきらめてくれ」
 そんなキラの肩をマードックが叩く。
「坊主が一番適任だと思うんだよ」
 それは嬉しくない……とキラは心の中で付け加えた。

 それでも、周囲の期待に逆らうわけにはいかないだろう。パイロットスーツからオーブの軍服に着替えると、キラはそのまま医務室へと向かった。
「え〜〜! 俺、外出禁止なんですかぁ!」
 通路にまで妙に明るい声が響いている。その声に、キラはまたため息をついてしまった。それでも、このままでは行けないことはわかっている。意を決して中に足を踏み入れた。
「キラ!」
 すぐに彼に気づいたのだろう。ハイネが嬉しそうにこう声をかけてくる。
「……で、何であんなまねをしたわけ?」
 そんな彼の側に歩み寄るとキラは厳しい口調を作ってこう問いかけた。
「そんなに、僕は弱い?」
 もちろん、相手がそんなことを思ってもいないだろうとわかっていてのセリフだ。
「ひどいなぁ……身を挺して守ったのに」
 即座に、ハイネはこう言い返してくる。その上、わざとらしい泣き真似まで彼はして見せた。
 確かにこんな言動をしていれば鬱陶しいだろうな、とキラも思う。
 だからといって、許せるかというと別問題だ。
「誰が、そんなことをして欲しいって言ったの?」
 自分のために、もう誰も傷ついて欲しくないのに……とキラは言外に滲ませる。
「……仕方ないじゃん……俺がそうしたかったんだから」
 旬とした口調でハイネは言葉を返してきた。もっとも、それは反省しているわけではなく、キラの機嫌を損ねたからだろう。
「俺、キラのこと好きだしぃ」
 しれっとしてこう付け加えるあたり、本気で頭が痛くなってくる。
 もっとも、この態度は、ある意味なれたものだ。
 三年前から、彼は平然とこう言ってはキラにからみついてきたのだ。そんな彼の態度に、バルトフェルド隊にはこんな性格のパイロットしかいないのか、と本気で悩んだことも否定しない。もっとも、こうでなければ張る度ゲルドハもちろん、ラクスとも付き合っていられなかったのだろうか。
 だからといって許せるかというと別問題だろう。
「勝手に言っていれば」
 けがが治ったら、放り出してやる、とキラは思わず付け加えてしまう。
「そんなぁ……」
 キラに会いたくて、こんな危険なまねをしたのに……と口にしながら、ハイネはキラの腰にすがりついてきた。
「俺、お得だよ? フェイスが一人いれば、ザフトとのいざこざは減らせる」
 だから、ここに置いて……と彼は付け加える。
 そんな彼に、なんと言って応えるべきか、キラは本気で悩んでしまった。

 一体、何分でキラがあきらめるか。
 そんな賭が艦内のあちらこちらで行われていたことをキラは知らない。それは幸せだったのだろうか。

「……で? あれは何なんだ?」
 アークエンジェルと合流したミネルバの乗組員が、キラにまとわりつくハイネに気づいたのは、それからすぐのことだった。
「私に聞くな!」
 アスランの問いかけに、カガリがこう言い返す。
「あいつが、キラを追いかけ回しているだけだ!」
 このセリフを耳にしたアスラン達がどのような行動に出たか。それはまた別の話だろう。


ちゃんちゃん
05.02.27 up



ハイネとキラを絡めたかっただけの話……ですね。
タイトル通りの話ですが……まぁ、家の話ではよくあることです(苦笑)