密談・2



「ラウさん!」
 言葉とともにキラは彼に駆け寄った。そうすれば、当然のように彼は抱き上げてくれる。
「いいこにしていたかね、キラ」
 アスランはもちろん、レイもシンもそばにはいなかったのだが……と問いかけられて、キラはしっかりと頷いて見せた。
「ちゃんといいこにしてたよ、僕」
 ね、とキラは周囲の者に同意を求める。
「えぇ。キラはとてもよい子でしたわ。見ていた映像はともかく」
 微かに棘を滲ませた口調でラクスがこういう。それにクルーゼは苦笑を浮かべて見せた。
「お許しを歌姫。あのようなまがい物でも、現状では人々の心を落ち着かせてくれる程度の役には立っているのでね」
 もちろん、本物なら、戦争を終わらせることも可能だろうが……とさりげなく付け加えたのは皮肉なのだろうか。
「私は、あの方の望む言葉を口にできませんもの」
「もちろんわかっておりますよ、歌姫。ですから、あの男にはしっかりと鉄槌を食らわせる予定ではありますが」
 その前に、許可を取らなければいけないことがある、とクルーゼは付け加える。
「と、おっしゃいますと?」
 にっこりと微笑んでいるはずなのに、どこかこわいと思ってしまうのはどうしてなのだろうか。キラはそう思ってしまう。
「キラ達が出会ったというあの男に関しての許可をね」
 捕縛と保護……それに必要であれば治療の許可ももぎ取らなければいけないだろう……と彼は付け加える。と同時に、さりげなく周囲に視線を流した。
「ラウ。キラは俺が預かります」
 そうすれば、一緒に来ていたらしいレイが声をかけてくる。
「ついでに、ここの端末を使う許可をいただけるのでしたら、キラに協力をしてもらって情報を集めておきますが?」
 その方が時間が有効に使えるだろう……と彼は続けた。
「情報?」
 何の? とキラは礼の腕に移動をしながら問いかける。
「この前会ったお兄さんの居場所、かな? 取りあえずは」
 キラならできるだろう? というレイの言葉に、キラはしっかりと頷いて見せた。
「レイ……」
 しかし、ラウはそうではなかったらしい。どこか憮然としたような表情を作っている。
「何故、キラなのだね?」
 そして、こう口にする。
「キラの実力は、ザフトの中でもトップクラスと同レベルですから。ミネルバでも、キラに勝てる人間はいません」
 情報処理でトップだったメイリンでもキラの手助けにならないのだ……とレイは正直に告白をした。アスランであれば話は別かもしれないが、彼は今動けないだろうし、とも。
「アスランとハイネの二人かがりでなければ、あれを押さえておけないからな」
 もっとも、ここに来る度胸はないだろうが……というラウの言葉に誰もが頷く。
「そういうことでしたら、ご自由におつかいください。ノイマン?」
「わかりました、艦長」
 マリューの言葉に、操縦席に座っていた彼が立ち上がる。
「キラ君やメイリンさんという方ほどではありませんが、彼もそれなりの実力を持っていますわ。何よりも、この艦の端末に詳しいですから」
 キラ君が困ってもフォローができます、とラミアスが付け加えた。
「そういうことでしたら、お願いをします」
 その言葉をどう受け止めたのか。レイは即座にこう言葉を返す。そして、ラウに向かって『かまいませんよね』と確認を求めた。
「わーい、ノイマンさんも一緒だ」
 レイの腕の中でキラは嬉しそうにこう告げる。
「お手伝いをするからね。頑張ってくれるかな?」
「もちろん」
 ラウの返事を待たずに、キラはノリノリの表情でこう口にした。そうすれば、キラには甘いラウは認めないわけにはいかないらしい。あるいは、別の理由があったのかもしれないが。
「……危険なことはさせないように」
 この一言をため息とともにラウは口にする。
「わかっています。相談が終わったら連絡をください」
 レイのことの言葉を合図にキラ達は移動を開始した。
「では、今後のことを打ち合わせましょう。もっとも、現実問題としてザフトは表だって動けませんが」
 そんな彼の耳に、ラウの言葉が届く。だが、最後まで聞く前にドアがそれを遮ってしまった。

「あのね〜、地球軍のデーターベースの中に、ネオさんもステラちゃんも名前があるの」
 でもね、とキラは続ける。
「同じデーターが、ブルーコスモスさんのにもあった」
 この言葉を口にした瞬間、レイとノイマンの表情が強ばった。
「キラ」
「なぁに?」
 レイの問いかけに、キラは小首をかしげながら視線を向ける。
「いつ、調べたんだ?」
 教えてくれ、とレイがそんなキラに問いかけてきた。
「んっとね……ギルさんがお部屋に来たとき」
 気になると言ったら、なら調べてご覧と彼は言ったのだ。そして、基地の部屋の一つを『自由に使っていいから』といってかしてくれたのだ、とも付け加える。
「まったくあの人は……」
 自分たちに知られればどのような結果になるかわかっているくせに……とレイがため息をつく。それでもやるというのは、ひょっとして自分たちに怒られることを既に楽しんでいるのではないだろか、とも。
「まさかと思うが……かまって欲しいからやっている、と言うことはないだろうね」
 いくらなんでも、三つや四つの子供じゃないんだし……とノイマンが呟く。
「否定できないところが悲しいですね」
 昔からちょっと変わったところはあったが、ここまではひどくなかった、とレイはため息をついた。それに、その気になれば、彼は思いきり有能なのだ。だからこそ、厄介なのかもしれないが……と付け加える。
「一度、本気で反省してもらわなければいけないのですが……現状では難しいですしね」
「確かにな」
 なんとかんとかは紙一重というしな……とノイマンも頷いてみせた。
「本当に……どうしてこうなったんだか……」
 このままでは何もしないうちに時間切れになってしまうのではないだろうか。なんか、この端末の使い方は説明をしてもらわなくてもわかるようだし。キラは心の中でこう付け加えると、さっさと行動を開始する。
「えっと……現在の居場所、かな〜」
 それと、ステラの友達のことと、ついでになんか特別なことがありそうだから、それについても調べないと……とキラは呟きながらキーボードを叩く。
 その背後で、レイの愚痴はしばらく続いていた。

 数日後、ぐったりとしたデュランダルを引きつれてラウはプラントへと戻っていった。そして、ミネルバもまた出航をする。その先で、アークエンジェルと合流したことは、誰も知らない事実だった。



06.11.05 up



というわけで、そろそろ佳境にはいるかどうか。ついでに、変態議長は強制退去ですね(苦笑)