会話「キラ〜」 お姉ちゃんのお膝においで……といいながらカガリが自分のそれを叩く。それにどうしようかというような表情を作ると、キラはレイを見上げてきた。 「行っておいで。ただし、失礼がないようにな」 相手はオーブの代表だ、と付け加えればキラは小さく頷き返す。そしておずおずと彼女に近づいていく。 「いじめないって」 苦笑とともにカガリはキラの体を抱き上げる。そして、そのまま自分の膝の上に座らせた。 「しっかし、小さいな。ちゃんと好き嫌いしないで食べているのか?」 くすくすと笑いながら彼女はキラの髪をかき回す。その表情は本当に楽しそうだ。 「……食べてるもん」 しかし、キラの方は微妙な表情を作っている。 ひょっとしたらカガリの仕草に困惑を覚えているのかもしれない。レイはそう判断をしてしまう。考えてみれば、あんな風にキラを扱うものはミネルバにはいなかったのだとも。 「……レイ君、だったな」 その時だ。レイの耳にアスランの声が届く。 「何でしょうか……えっと……」 どちらの名前を言えばいいのか、とレイは一瞬悩む。 「アレックス、でかまわないよ」 そんなレイの困惑を察したのだろう。アスランはこう言ってくる。同時に、ここではあくまでも《アレックス・ディノ》で通すつもりなのだろう、とレイは判断をした。 「では、アレックス。何でしょうか」 改めてこう問いかければ、 「……あれは……」 と言いにくそうな表情でアスランはキラを見つめる。どうやら、あれが《キラ・ヤマト》だということは理解できたらしいのだが、どうしてああなったのかまでは確認できなかったらしい。いや、あの場にタリアがいたから、それに関しては遠慮したのだろうか。 「すみません……俺たちの監視ミスです」 ギルと二人にしてしまったせいで……とレイは口にする。 「いや……それに関しては君達が軍人である以上、仕方がないことだ、とわかっているのだが……」 それにしてもどうして……と彼は呟く。 「……ギルの作った薬を、キラさんが間違えて飲んでしまった……ということらしいのですが……俺としては、こうなることが予想できた上で故意に飲ませたのではないかと」 こう言った瞬間、レイの脳裏に、ある記憶がよみがえって来る。 「……どうかしたのか?」 複雑な表情を作っていることに気が付いたのだろう。アスランが問いかけてくる。 「そう言えば……小さい頃のキラさんは可愛いだろうとか何とか……」 見てみたいとも言っていたことをレイは覚えていた。 「でも、まさかこんなことをするとは……」 思わなかった、と付け加える。 「いや、普通考えないだろう……」 アスランもこれには同意をしてくれた。それだけで、少しは気が楽になる。 「考えても、実行に移せないに決まっているだろうが」 きっと、何があってももみ消せると思っていたのだろうな……と彼は付け加えた。それに関しては、レイも否定できない。 「でも、俺はともかく、ラウの怒りはどうしようもないのではないか、と思いますが?」 あれを受け流せるほど、ギルバートの精神は強くない。いや、あのギルバートも一瞬ためらうほどラウの怒りはものすごい、というべきだろうか。 「……あの人ならそうだろうが……」 かつて、彼の下で戦ったことがあるアスランは、その怖さを十分に知っている、ということなのだろう。ため息とともに頷いている。 「だが……俺としてはもっとこわい存在がいるんだが……」 というよりも、あれに知られる前に何とかしないと、ギルバートの命が保証できないのではないか……と彼は付け加えた。 「……どなたのことですか?」 普通の相手であれば、彼にそんなことをできるはずがないと思う。しかし、アスランがこのような態度を取っているのであれば、少なくとも彼は不可能ではない、と考えているのだろう。いったい、それは誰なのだろうか、と思って問いかける。 「……ラクス、だ」 ため息とともにアスランはある名前をはき出す。 「……ラクス・クラインですか?」 とても信じられない、という思いのままレイは聞き返してしまった。 「キラのことが関わると、人格は変わるんだ、彼女は……」 キラが幸せであれば、多少の脱線も笑って見逃すのだが、その逆となれば話は違う、とも付け加える。彼女は、ギルバートのように目に見える権力は持っていない。だが、彼女の信者はどこにでもいるだろう、とも。それはレイも知っていた。 そんなラクス信者が一挙に動き出したらどうなることか。 「……本当にあの人は……」 とんでもないことをしでかしてくれたものだ、とレイはため息をつく。 「全くだ」 カガリの性格を考えれば、絶対にラクスにバラスに決まっている。その時、一番被害を被るのは自分なのではないか。アスランはこうも付け加えた。 だが、それに関しては何とも言えない、とレイは思う。がんばってくれ、というのが精一杯だ。 「レイ〜〜」 まるで、二人の会話が終わるのを待っていたかのように、キラが駆け寄ってくる。 「どうした、キラ」 その体を軽々と抱きかかえてやりながら、レイは微笑みを浮かべた。 「あのね」 それが嬉しいのだろうか。キラも嬉しそうに微笑みを返してくる。その表情のまま彼は口を開いた。 「カガリお姉ちゃんが、一緒に写真を撮ってもいいかって……」 いいの? とキラは問いかけてくる。 その言葉に、レイは頬を引きつらせてしまった。 「……こう来るとは……」 予想外だった、とレイは思う。 「カガリも……何かを考えているようで、何も考えてないんだよな」 本当に、とアスランもため息をつく。 「どうしたの? レイにアスラン」 小首をかしげながら、キラは二人に問いかけてきた。 だが、自分たちはまだ、アスランの名前を彼に教えてはいないはず。それともカガリが告げたのだろうか、とレイは思う。 「何でもないよ」 ちょっとね、とレイは曖昧な笑みを彼に返す。 「それよりも、写真って?」 誰が言い出したのか、とレイはキラに確認をする。 「ルナお姉ちゃんとメイリンちゃん」 即座にキラは自分の同僚達の名前を口にしてくれた。ということは、彼女たちの持っているカメラか何かで撮影するつもりなのだろう。 艦内だけであれば、大騒動にはならないのではないか。そうは思うのだが、今ひとつ不安が消せない。 「カガリ……」 同じような気持ちをアスランも抱いていたのではないか。彼は確認をするためにふんぞり返っている彼女の名前を口にする。 「いいだろうが! 可愛いキラの記録を残して何が悪い!」 それに、と彼女はふっと笑いを漏らす。 「議長にキラを本来の姿に戻してもらうための脅迫には使えるだろうが」 そして、開き直ったかのようにこう言い返してきた。 「……本当に、彼女に黙っていられるのか?」 ラクスの名前を直接口にしないのは、間違いなく周囲をはばかっているのだろう。それを自分に教えてくれたのは、間違いなくキラが自分を信頼してくれているからだ、とレイにはわかっている。 「……多分……」 そんな彼等の前でカガリが言葉につまっていた。 「あいつらの動きだけでも厄介なのに、さらなる厄介ごとを引き起こすような行動は慎むんだ」 その代わりに、ここにいる間にキラと仲良くしていればいいだろう、と彼は付け加える。そうしてもらった方が、いろいろとありがたいのだが、という言葉が聞こえてきたような気がしたのは錯覚ではないのかもしれない。 「……あ〜! シンも来た!」 そんな複雑な雰囲気とは関係なく、お気に入りの相手を見つけたキラの嬉しそうな声が周囲に響いた。 終
06.07.13 up ミネルバでの会話です。 意外と仲がいいミネルバ組とオーブ組です(苦笑) |