再会?



 これはいったい何なのか。
 ネオは己の足に張り付いているお子様を見下ろしながら思わず悩んでしまう。それでも邪険にできないのは、お子様が身に纏っている色彩が、彼の中にある《何か》を刺激してくれるからだ。
「えっと……」
 それがなくても《子供》に危害を加えることなんか、彼にはできない。
「どうかしたのか?」
 あるいは、自分を父親と間違えている可能性もあるし……と考えながら、こう問いかけた。
「……おじさん」
 そうすれば、お子様が言葉を返してくる。その声にやはりどこか聞き覚えがあるような気がしてならない。だが、それよりも今のネオには彼が口にした言葉の方が衝撃が大きすぎた。
「……おじさん……」
 確かに、この年齢のお子様から見れば自分は『おじさん』なのかもしれない。いや、実はこの年齢の子供がいてもおかしくはないと思われる年齢なのだ。だが、せめて『お兄さん』と言って欲しいような気がしてならない。
「お兄さんは、ネオだ」
 だから、さりげなくこう主張をしてみる。
「取りあえず、名前を教えてくれないかな?」
 さらにこう付け加えれば、相手は何かを考え込むように小首をかしげた。
「おちびさん?」
 どうかしたのか……とネオは問いかける。自分とは初対面だよな……とも付け加えた。
「おじさん、ステラちゃんのお知り合い?」
 そうすればお子様はさらにこんなセリフを口にしてくれた。と言うことは、このお子様は彼女の知り合いだ、と言うことになる。だが、彼女が自分たち以外の人間といつ知り合ったのか……というのだろうか。そう考えれば、先日のことが思い出された。
「……そうだ」
 あの後、ステラの記憶の中から二人のことは消した……はずだったのだが何故かまだ覚えているのだ、と研究者達が言っていたな、と思いながら頷いてみせる。
「と言うことはおちびさんは、キラとシンのどっちかな?」
 記憶の中の名前を口にすれば、
「キラで〜す!」
 とお子様は元気に言葉を返してきた。
「そうか……キラ君の方か」
 取りあえず、名前はわかったな……と言うことで満足するべきなのだろうか。それとも、とネオは悩む。何よりも、このお子様は確か、ザフトの人間と一緒にいたはずだし……とも思う。
「そうです」
 しかし、キラの方はネオの言葉に嬉しそうな笑みを作った。
「で? 一人で来たのか?」
 側に誰かいるのであれば、さっさと押しつけてこの場を立ち去ろう、とネオは心の中で呟く。ここで『放り出していこう』と考えないのは、彼の面倒見の良さを表しているのではないか。誰でもそんな指摘をするのだろうが、本人だけは気づいていないようだ。
「んっとね〜、マリューさんと一緒」
 そうすれば、キラは即座にこう言い返してくれる。
「マリューさんというと……女性か?」
「そうだよ。ムウさんの恋人なの」
 また訳のわからない名前が出てきた……とネオは思う。だが、小さな子供だから、知っていることを全部いわないときがすまないのだろうと考え直す。
「なるほど」
 ならば……とネオは小さな体を抱きかかえる。そして、そのまま肩車をした。
「わぁっ」
 そうすれば、キラが嬉しそうな声をあげる。
「たか〜い!」
 凄い、と付け加えられて気分が悪いはずがない。
「そうかそうか」
 あの三人も可愛いが、やはりこのくらいの年齢の子の方が表現が素直だなぁ、と思いながら、ゆっくりと歩き出した。
「おじさ……じゃなくて、ネオさん?」
 どうしたの? とキラが問いかけてくる。
「こうしていれば、マリューさんだったかな、その人が見つけやすいだろう?」
 違うのかと問いかければ
「高いから、きっと見つけてくれるよね」
 と即座に言い返してきた。
「大丈夫だ」
 こう言い返しながらも、心のどこかでこの子供と離れたくないと思っているのはどうしてなのだろう。それでも、連れて行くわけにはいかないのだ。そう自分に言い聞かせながら、歩き出した。

 マリューの方もはぐれたキラを捜してくれていたらしい。すぐに再会することができた。
 だが、ネオの顔を見た瞬間、彼女はかすかに目を見開く。
「どうかしましたか?」
 そんな彼女の仕草に、ネオがこう問いかける。
「いえ、申し訳ありません。ただ、しっくりと来る光景だったもので」
 キラがそんな風になついているからと、彼女は微笑みを浮かべた。だが、それが本音ではないとキラは気づいている。
「……やっぱり、親子に見える?」
 ここに来るまでの間、すれ違ったり何かした地元の人々から言われたセリフがよほど堪えているのだろう。ネオはマリューを見つめながらこう口にした。
「えぇ」
 本当になかがよい親子ですわ……と即座に言い返すマリューは、他の光景を見つめているようにも思える。
「ともかく、キラ君を連れてきてくださって、ありがとうございます。彼に何かあったら、後悔だけではすみませんから」
 すぐにこう言い直すと、キラの方に向かって手を差し伸べてきた。その腕にネオはキラを手渡す。
「ところで、さ」
 ふっと口調を変えてネオは言葉を口にし始める。
「聞いてもいいのかどうかわからないんだが、貴方はナチュラルか? こっちのおちびさんはコーディネイターのようだが」
「そんなこと、関係ありませんわ。大切なのは、相手をどう思っているかでしょう?」
 キラ君を好きだから、面倒を見ているのですよ……とマリューは微笑む。同時に、キラの体を抱きしめる。
「ナチュラルだとかコーディネイターだとか……そんなことで人を区別するのは意味がないことですわ」
「そう言いきれる強さ、っているのは、少しうらやましいかな」
 許されない立場、の人間としては……という言葉に、マリューはかすかに眉を寄せる。
「この言葉を手に入れるまで、失ったものも多いですわ」
 だが、ネオを非難する代わりにこう口にした。
「なるほど、ね」
 じゃぁな、と彼はキラの頭をなでてくる。そして、そのまま人混みの中に消えていく。
「……どうして……」
 その彼の後ろ姿を見送りながら、マリューがこう呟いた。
「あの人……」
 そんな彼女に追い打ちをかけることになるのだろうか。そう思いながら、キラは口を開く。
「何か、懐かしい感じがしたの」
「そうなの」
 そんなキラに向かって、マリューは少し寂しげに微笑んでくれた。




06.06.09 up



 SCC用ペーパーでした。
 ネオさんとキラの話。ここいらから、本編無視になるのかな(苦笑)