プレゼントキラの誕生日に、何をプレゼントすればいいのだろうか。 カレンダーをにらみながら、シンはそう思う。 「本当、あの人は……」 自分の内心を悟らせないことに関しても天才的なのだ、彼は。 「もう少し、本心を見せてくれればいいのに……」 そうすれば自分だってフォローができるのではないか。 「っていうか……いっそ、側にいられるような立場になってしまえばいいんだろうけど……」 その方法は二つあることはある。だが、その片方は自分には絶対不可能だと言えるものだと言うこともわかっている。となると、選択肢は一つしかないわけだが……と小さなため息をつく。 「それはそれで問題なんだよなぁ」 自信がないわけではない。 むしろ、有り余るくらいあると言っていいだろう。 だが……とシンは心の中で呟く。自分のかつての立場が大きな障壁になっていると言っていいのだ。 「……でも、なぁ……それしか方法がないし……」 それ以外に、自分がやりたいこともないし……とシンはため息をつく。 「相談、してみるかな……」 でも誰に、とすぐに悩む。 一番いいのはかつての上司かもしれない。だが、彼を頼るのは今ひとつ気が進まない。というよりも、むしろやりたくない。 では誰がいいのか。 顔見知りの相手の中で現在オーブにいる者達で……という条件を考えれば、答えは一つしか思い浮かばなかった。 「あの人も、今ひとつなんだけど……話は聞いてくれそうだからな」 それに、年齢が離れいてる分、あいつよりはマシだ……とシンは思う。だからといって、勝手に押しかけるわけにもいかない。 「取りあえず、連絡してみるか……」 こう呟くと、シンは取りあえずパソコンに向かった。 「……そうか……」 フラガとマリューからの報告を耳にして、カガリは考え込むような表情を作る。 「お前達はどう思う?」 だが、結論が出せなかったのだろう。二人に向かってこう問いかけてきた。 「まぁ、いいんじゃねぇの」 それに、フラガはあっさりとした口調でこう告げる。 「実力的には問題なし。ついでに、あれだけキラになついているなら、本人に嫌だと言われても張り付いているに決まっているしな」 そうすれば、アスランがフリーになるだろう。そうすれば、もっと柔軟な人事ができるのではないか。彼はこう付け加えた。 「そうですね。アスラン君も、キラ君の側に誰かいれば安心して動けるでしょうし」 マリューもそれに同意を見せる。 「キラ君も、知らない人間よりも気が楽なのではないですか」 同居をしているのでしょう? と彼女は付け加える。 「キラが追い出していないからな」 ということは、キラとしても気に入っていると言うことだろう……とカガリも頷く。 「なら、なおさらいいんじゃねぇ。自宅でも、キラの護衛ができるってことだろう」 現在、キラの護衛をしているのはフラガである。その彼がいいというのであればかまわないだろう、と思う。 実際問題として、キラの今の立場であれば、もっと大勢のSPを付けてもおかしくはないのだ。だが、本人がいやがるのと、キラの動きについて行けるようなものがいないという理由で、それに関しては保留になっていたのだ。 「そうだな……」 問題がないわけではないが……とカガリは思う。 それでも、アスランをこき使うためにはキラから引き離さなければいけない。今の自分たちには有能な人材を無駄にするだけの余力はないのだ。 たとえ、元ザフトのエースだろうと、有能ならば引き込むことに依存はない。 しかし、と思う。 相手が《シン・アスカ》であれば、別の意味でアスランがキラの側から離れたがらないのではないかと思う。 「無駄だ、っていうのにな」 完全にできあがっている関係に割り込めるはずがないだろう、とカガリは心の中で呟く。 「まぁいい。取りあえず、フラガ一佐に任せる」 しごくなりこき使うなり、好きにしろ……とカガリは付け加える。 「了解です」 楽しませてもらいましょう……と付け加える彼の、悪い性格は相変わらずらしい。それなら、それなりに楽しい報告が聞けるか。それで我慢することにしよう、とカガリは心の中で呟く。 同時に、ラクスも巻き込んでしまえ、と。 「というわけで、シン・アスカの志願を認めるように軍には連絡しておいてくれ」 後は、キラの驚く表情を見ようか……とカガリは心の中で付け加える。自分も同じ日に誕生日を迎える、という事実は彼女の脳裏からきれいに抜け落ちていた。 「……シン?」 何で……とキラは思わず呟いてしまう。 「今日から、フラガ一佐の指揮下に入りました」 キラさんの護衛だそうです、と口にして、シンはすぐにしまったというような表情を作る。 「じゃなくて、ヤマト准将……でした」 自宅にいるときの癖で……とシンは苦笑を浮かべる。 「まぁ、いいけど……」 人前でなければ、とキラはまだ衝撃が抜けきっていないという口調で呟く。 「でも、どうして……」 とキラはさらに付け加える。 「ルナやメイリンはもちろん、レイも自分のすべき事を見つけたのに、俺だけまだだったし……いくら考えても、俺にはこれしかできないかなって」 何よりも、とシンは付け加えた。 「どうせなら、仕事中もキラさんの側にいたかったし……」 まさか、本当にそういう部署に配置されるとは思わなかったが……と視線を泳がせながら口にする。 「……どうせ、カガリが手を回したに決まっているけどね」 公私混同って言わないのかな、それは……とキラは呟く。 「あの……迷惑でした?」 ひょっとして、自分がここにいることをキラが『いやだ』と思っているのだろうか。そう思いながら、シンはこう問いかける。 「……そうじゃなくて……」 キラが慌ててシンの言葉を否定しようとし始めた。 「キラさん?」 ではどうしたのだろうか……とシンは思う。 「まさか……ここでもシンと一緒だとは思わなかったから……」 どうすればいいのかわからなくなっただけ……とキラはうすらと頬を染める。 「困らせるつもりじゃなかったんだけど……」 ちょっと困ったようにシンはそんなキラから視線をそらした。でなければ、このままここでキスの一つぐらい仕掛けたくなりそうだったのだ。 さすがに、ここでそれはまずい。 そう判断する程度の理性はシンにだって残っている。 「やっぱり、プレゼントとか買うのに……もらったお金からっていうのはいやだったし……」 キラを守れるような立場になりたかったし……とシンはそのまま付け加えた。 「本当に君は……」 シンの言葉に、キラはゆっくりと歩み寄ってくる。 「キラさん?」 どうしたのか、と思ってシンは慌てて彼に視線を向けた。 「まっすぐだよね」 でも、嬉しい、と微笑むキラの顔がすぐ間近に見える。それを見てしまえばもうダメだ、とシンは心の中で呟く。 「キラさん!」 言葉とともにキラの体を抱きしめる。そのまま唇を寄せようとしたときだ。 「失礼します、っと」 わざとらしいタイミングで、フラガがドアを開ける。 「ムウさん!」 慌てたようにキラがシンの体を突き飛ばす。予想していなかったその行動に、シンは体勢を整えることができずにそのまましりもちをついてしまった。 「邪魔したようだな」 くくっと低く笑う様子から、絶対に故意犯だ、とシンは思う。 「……楽しんでいますね……」 同じようなことを感じたのだろうか。キラもまたこう口にした。 「というより、代表命令だから」 抱擁までは許可。それ以上は邪魔しろ、だそうだ……と彼はしれっとして口にする。もっとも、自宅の中で何をしているかまでは干渉しない、というより、自分の目の届かないところなら諦める、という伝言付、と彼は付け加えた。 「それって……」 「……カガリは……」 二人は同時に頭を抱えてしまう。 「あきらめろ。キラはともかく、シンはな」 オーブ軍人である以上は特に……と言われても納得できない。 「ともかく、これには目を通してくれ……それと、あちこちからお前さん宛に誕生日のお祝いが届いているが、どうする?」 「どうするって言われても……」 何でそんなことに、とキラは呆然としているようだ。 「それに関してはこれに手伝わせてカードでも返せばいいと思うぜ」 言葉とともに、彼の手がシンの頭の上に置かれた。その瞬間、何か違和感を感じてしまう。 「というわけで、俺たちからは、取りあえずこれな」 後できちんとしたものを渡すけど……といいながら、彼の手が離れる。それと同時に、シンは慌てて自分の頭を手で触れる。 「何なんですか、これは!」 「だから、リボン。お前がプレゼントな〜」 豪快な笑いを漏らす彼に、シンはもちろん、キラも呆然とするしかできなかった。 もちろん、この後まじめな――しかもうちわの――パーティが用意されていたことは事実だった。 ちゃんちゃん
06.05.17 up 同居人設定のシンキラです。 ちょっと甘めで…… ここまで行き着ける日はいつなのでしょうね(苦笑) |