誕生日




 さて、どうするべきか。
 それを考えると、ため息しか出てこない。
「いくら記憶がなかったから、といってだなぁ……」
 あれこれ、とんでもないセリフを自分がキラに投げつけてしまったことは事実だ。
 どうせなら、記憶を取り戻してしまったときにそれらもリセットされてくれればよかったのに、とも思う。だが、それではあのかわいそうな子供達を悼む記憶すら失われてしまうのではないか。そう考えれば、今のままでいいのかもしれない。
「ともかく、何とかしないと……」
 少なくとも、あのころの自分たちは一応《恋人》と呼べる関係だったのだ。それが、あの極限とも言える状況の中で、ちょっとした気の迷いから始まったかもしれない関係だ、としてもだ。
 それでも、しっかりと自分の中で彼の存在が何よりも大切なものとして根付いたことは事実。
 そして、彼の方もそうだとは思う。 「今の坊主に、他の誰かがいるなら諦めるんだが……」
 どうも、そうかもしれないと思っていたラクスとそういう関係になっているようではないのだ。
 ならば、まだやり直せるのではないか、とも思う。
 こう考える自分の気持ちを《未練》と呼ばれてもかまわない。悲しませた償いだけはしたい、とそう思うのだ。
「ちょうど、時期的にいいイベントがあるしな」
 ただ問題は、自分が持っている《キラ》の情報が三年前の頃のものだ、ということだ。あのころよりも大人になった彼の好みが変わっていない、と誰が言えるだろうか。
「やっぱり、情報収集からかね、手始めは」
 さて、誰から聞くか……とフラガは考える。
 そんな彼の前を顔見知りのオヤジが通り過ぎていく。
「丁度いい」
 一番話しやすい相手に、フラガはにやりと笑う。
「おーい、マードック」
 そして、即座に彼は行動に移った。

「……しかし、何なんだ、これは……」
 それから艦内を走り回って、かつての仲間達から集めた情報に目を通しながらフラガはこう呟いてしまう。
「ひょっとして、からかわれているのか、俺は」
 花やお菓子、それにゲームというある意味定番のプレゼントはいい。間違いなくキラは喜んでくれるはずだ。
 しかし、と言いたくなったのは最後の一つである。
「実行に移せるかよ、こんなもの」
 そこにはくっきりとこう書かれてあった。
『頭にリボンを付けて、自分をプレゼント』
 これも、ある意味定番のプレゼント……といえるのかもしれない。だが、それが許されるのは可愛い女の子だけだろう。
「……キラなら、今でも似合うだろうけどな」
 というか、あのころと違って《美人》という表現がしっくり来るようになった彼であれば、それこそ鳴いて喜ぶようなシチュエーションだろう。
 しかし、それを自分がやるとなれば、話は別だ。
 気色悪いを通り越して笑いを取るネタにしかならないのではないか。
「まぁ、それでキラが喜んでくれるんなら考えるけどな」
 そうは思えないから困る……とフラガはため息をつく。
「やっぱ……定番で行くか、定番で」
 最新のゲームと、それときれいな花。後は、うまそうなケーキでいいか……とフラガは判断をする。
「これなら、ネットで調べられるかな」
 こう呟きながら、フラガは立ち上がった。そして、そのまま歩き出す。
 その光景を見つめているものがいる、と彼は気づかなかった。

「どうします、マリューさん」
 こう言いながら、ミリアリアが問いかけてきた。
「どうするもこうするも……させるしかないでしょう」
 ふっと微笑みながら、彼女はこう言い返す。
「ペナルティですもの」
「でも、相手はフラガさんですよ?」
 実力行使も難しいのではないか、とミリアリアは言外に告げてくる。
「いざとなったら、みんなで飛びかかればいいでしょう。キサカ一佐達も協力してくださると言っているのですし」
 いくらフラガが有能な軍人でも大人数でかかれば何とかなるのではないか、と思う。
「そうですね」
 確かにそれならば可能かもしれない、とミリアリアも頷く。
「いざとなれば、バルトフェルト隊長も駆けつけてくださるとおっしゃっていたしね」
 絶対に成功させるわよ、とマリューは拳を握りしめながら口にした。

「……えっと……」
 何の冗談……とキラは思わず呟いてしまう。
「冗談じゃないぞ。みんなからのプレゼントだ。遠慮せずに受け取れ!」
 こう言ってきたのは、自分の双子の片割れだ。
「でも、カガリ……」
「……ちょっとしたペナルティーだ。あれに比べれば可愛いものだろう」
 それが何を指しているのか、キラもわかっている。それだけ彼の言動がカガリ達を怒らせていたのだ、ということもだ。
 しかし、それとこれとは別問題ではないだろうか。そうも思う。
「どうかしたのか?」
「今更、ムウさんをもらっても……」
 というか、昔から僕のだし……とキラはさりげなく付け加えた。
「……キラ、それって……」
「何かおかしい?」
「いや……いい」
 フラガが昔からいっていた言葉を口にすれば、カガリは赤くなったり青くなったり忙しい。それでも、最後には納得したようだ。
「というわけで、今日明日は、お前は絶対仕事をするな。これは命令だからな!」
 それと一緒に遊んでいろ! と言い残すと、彼女は部屋を出て行く。
 後には、キラとリボンでグルグル巻きにされたフラガが残された。
「ムウさん……」
 ほどきましょうか? とキラは彼に問いかける。そうすれば、彼はしっかりと頷いて見せた。
「見ていて楽しいんですけどね」
 苦笑とともにこう告げると、キラはまず猿ぐつわから外す。
「だけど、これじゃ抱きしめてやれないだろう?」
 そうすればフラガがこう言ってきた。
「ムウさん」
 この言葉に、キラはふわりと微笑む。
「今日はずっと抱いていてくださいね」
 こう問いかければ、彼はしっかりと頷いて見せた。




06.05.17 up



 ちょっと書きたいと思っているフラキラ設定で。宵闇よりは明るい話になるのかなぁ……難しいです。