バレンタイン




「アスラン……」
 キラが小さなため息とともにこう言ってくる。
「何だ?」
 作りかけのマイクロユニットから顔を上げると、彼はキラへと視線を向けてきた。
「わかっていると思うけど……もうトリィもハロもいらないからね」
 ハロはラクスの分だけで十分だし、トリィも一匹いればいい、とキラは言い切る。
「……キラ……」
 そんな……とアスランは言い返してきた。と言うことは、やはり今作っているそれは自分へのプレゼントの予定だったのだな、とキラはため息をつく。
「それよりも、子供達に作ってあげてよ」
 その方がみんな喜ぶから……とキラはその表情のまま付け加える。
「でも、キラ……」
 そうすれば、アスランはあからさまに困ったような表情を作った。
「だったら、俺はお前に何をプレゼントすればいいんだ?」
 そして、こんなセリフを言ってくる。
「……それこそ、自分で考えてよ……」
 キラが何を欲しがっているかを考えるのも、贈る側の義務だろう、と思う。自分は既に考えてあるし、と心の中で付け加える。もっとも、アスランの場合、キラが何を贈っても喜んでくれるだろうが。
「キラ……ヒントだけでもいいから……」
 トリィもハロもダメだというのなら……とアスランは食い下がってくる。
「教えない」
 にっこりと微笑んでキラはこう言い切った。
「がんばって考えてね」
 本当に自分のことが好きなら……と付け加える。
「キラァ……」
 そんな彼に、アスランはなおも追いすがってきた。そんな彼の表情にキラは小さくため息をつく。
「昔の格好良さは、一体どこに行っちゃったんだろうね」
 まぁ、二度も同じ事をしでかしてくれたから、仕方がないのか……とキラは思う。
「……僕が君を嫌いになることなんて、あるわけないのにね」
 小さなため息とともにはき出した言葉が、果たして彼の耳に届いたのかどうか。アスランはどこか泣きそうな表情で何かを考え込んでいた。

「……まぁ……アスランだからな……」
「アスランですものねぇ」
 カガリと会談のために地球に来ていたラクスが苦笑とともに頷きあっている。
「それはいいんだけどね……いつものことだから」
 キラが書類をつまみ上げながら言葉を口にした。
「でも、ワンパターンっていうのは何なのかなって」
 もう少し、いろいろと悩んでくれればいいのに、と呟く。
「それに関しては、ラクスが悪いと思うぞ」
 ふっと何かを思い出した、と言うようにカガリが口を開く。
「あら……私が何か?」
「毎回喜んでたんだろう? ハロをもらって」
「だって、たくさんいた方が楽しいではありませんか」
 こういう性格だから、アスランと婚約していられたんだろうな……とキラは小さくため息をつく。そして、それが正しいと彼も思いこんでしまったのだろう。
「どちらにしても、私たちの関係は儀礼的なものでしたもの。ですから、毎回同じものでもかまわなかったのですわ」
 それから何も学習しなかったのはアスランの方だろう、と彼女は言い切る。
「……あいつの学習能力はどこか壊れているからな……」
「本当に、あれでよろしいのですか、キラ」
 今からでも自分に乗り換えてかまわないのだ、と彼女は真顔で問いかけてきた。
「今更だよ、ラクス。それに、そういうアスランも嫌いじゃないし」
 見捨てるようなことをしたときの方が恐い……と苦笑を返す。
「まぁ……否定はできませんわね」
 だからといって……というラクスに、キラは困ったような視線を向けるのが精一杯だった。

 オーブ軍でのキラの人気は予想以上だったらしい。
 マリューやラクスと言った予想していた人物以外からも山ほどチョコレートが届けられた。
「……これは……持って帰れないよね、ちょっと……」
 さすがに一人では……とキラは頬を引きつらせる。
「これでも、部門ごとにまとめてくるように指示を出したのですが……」
 申し訳ないと頭を下げているのはアマギだ。いつの間にか、彼はオーブ軍内でのキラの補佐役に抜擢されていた。もっとも、同じようにマリュー達もキラの補佐役ではある。しかし、元々オーブ軍に所属していた彼のおかげで他の者達との軋轢が生じていないと言うことも事実ではあったが。
「いや……子供達のおやつに当分困らないな……とは思うのですけど。おいていくわけにはいかないですしね」
 言外に邪魔だろう、とキラが言い返したときだ。
「キラ!」
「キラさん」
 ばたばたと足音が近づいてきた、と思ったら、アスランと――最近カガリのパシリとかしている――シンが飛び込んできた。
「どうしたの、二人とも」
 その勢いにあきれながらもキラはこう問いかける。
「カガリが、キラの重大事だから手伝いに行けと言って……」
「取りあえず、車用意してきましたから……運んでしまいましょう、これ」
「あぁ、カードだけ後でまとめてくれる? お礼をしなきゃないでしょう」
「それなら、私の方でまとめてありますから。後で整理をしてキラ様にお渡しいたします」
 ですから、今日はお戻りください、とアマギが告げる。
「それと……キラ様のお手を煩わせるわけにはいきませんから……今、誰かを手伝いに寄越します。お待ちください」
 そのままこう言い残すと、彼はその場を後にした。
「アマギさんったら……」
「諦めるんだな、キラ。そう言うことで、お前は手を出すなよ?」
 あきれたように呟くキラに向かってアスランは苦笑とともにこう言い返す。
「そうですよ、キラさん。怒られるのは俺たちなんですから」
 絶対に、手を出さないでくださいね……とシンが念を押してくる。
「みんな、過保護」
 そんな彼等の姿を見ながら、キラはこう呟いていた。

 ようやく一段落付いたのは二時間近く経ってからのことだった。
「キラが人気者だって言うのは、よくわかっていたんだがな」
 小さなため息を漏らしながら、アスランはキラの体を抱きしめてくる。
「義理だよ、みんな」
 ほとんどの部署からもらっただけだ、とキラは微笑み返す。
「僕がもらいたいのは一人だけだし、あげたいのも同じなんだけど」
 そのまま、アスランの顔を見上げれば彼は嬉しそうに微笑んでいる。
「キラ」
 そのままゆっくりと彼は顔を寄せてきた。それを瞳を閉じることでキラも受け止める。変なものをもらうよりもこのぬくもりだけでいいか、とキラが心の中で呟いていたことはアスランには内緒だった。




06.02.13 up



 へたれアスランでしょう。それでも、ラブラブだから、カガリとラクスがどう思っているかが恐いですが(苦笑)