バレンタイン




「キラ……バレンタインって、何?」
 本を読んでいたステラがこう問いかけてくる。
「バレンタインっていうのはね、好きな人や家族やお友達にプレゼントを送る日のことだよ」
 キラはそう説明をした。
「じゃ、シンやキラやネオにアウル達にプレゼントを贈るの?」
 ステラは……と彼女はさらに質問を重ねてくる。
「そうだね。僕だと、ムウさんやステラ達、それにカガリとアスランかな?」
 側にいればラクスも、だろうが……彼女は今プラントだ。だから、メールぐらいでいいだろう。プレゼントは、こちらに戻ってきてから考えればいいかな、とキラは心の中で付け加えた。
「プレゼントって、何をあげるの?」
「カードとか、ちょっとした小物とか……昔はチョコレートを上げたって言う国もあったけど、基本的にステラが上げたいと思うものでいいと思うよ」
 フラガは――同じ事はアスランにも言えるのだが――甘いものが苦手だし……とキラは苦笑を浮かべる。それでも、一口ぐらいなら食べてくれるだろうか、とも。
「チョコレート……」
 だが、ステラは女の子らしく甘い物が好きだ。
「……シンも、チョコレート、好きなの」
 ふわふわとした微笑みを浮かべながらステラはこういう。
「でも、チョコレートって、買ってくるの?」
 シンにチョコレートあげたいの、と付け加える彼女に、キラはどうしようかと思う。
「市販のチョコレートだけじゃ面白くないから……ちょっと手を加えてみる?」
 そんなに難しくないよ、とキラは口にした。
「うん! やる!」
 嬉しそうにステラは笑う。
 彼女は、最近、自分の手で何かをすると言うことが気に入っているのだ。しかも、今回はシンに渡すものだから余計なのだろう。
「じゃぁ、まず買い物に行ってこようね」
 最近はキラも自由に出歩けるようになった――と言っても、護衛付きではある。カガリは何故かキラに護衛を付けたがるのだ――おかげで、そう言うこともできるようになった。
「ついでに、今日の晩ご飯も買ってこようね」
 そうすれば、みんなが帰ってくる前に準備が終わるよ……とキラは微笑む。
「うん!」
 キラの提案に、ステラは嬉しそうに頷いて見せた。

 昼間は二人だけだから、プレゼントの準備をしていてもばれることはないだろう。しかし、においが残るから……と言うことで、キラはチョコレートケーキも作ることにした。
「キラ?」
「これは今日のおやつね」
 そう言いながら、手早くケーキの準備をしていく。
「ステラは、チョコレートを刻んでくれる?」
 そうしたらとかすから……とキラは告げる。
「うん」
 こういう単純な作業であれば彼女に任せて大丈夫だ。何よりも、ステラは刃物の使い方に慣れているし、とも思う。もっとも、本来はそういう目的ではなかったのだと言うこともわかってはいたが。
 やはりナイフと包丁は違うのか。
 どこかおぼつかない手つきでチョコレートを刻み始めた彼女を見ながら、キラは手早く粉を振るう。それが終わったところで卵やバターと混ぜた。
「キラ、終わった」
 次はどうするの? とステラは問いかけてくる。
 丁度キラの方も同じ作業に入るところだし……と思って顔を上げた。
「お湯を沸かしてくれる? 一番大きなお鍋だよ。それから、ステンレスのボールにチョコレートを入れておいてね」
 ついでに鍋の下には陶器の鍋敷きを入れておくように、とキラは付け加える。
「わかった」
 ステラが作業を開始したのを確認して、キラは冷蔵庫から生クリームを取り出す。そして、それを鍋に入れた。
「沸騰させなくていいからね」
 温度計で温度を測って、六十度ぐらいになったら教えて……とキラは付け加える。
「うん」
 こう言うときに、ステラはいい助手になるな……と思いながら、キラは生クリームを暖め始めた。

「……なるほどな」
 バレンタイン当日、それまでの顛末を聞いたフラガは苦笑を浮かべながら頷いてみせる。
「それで、あの坊主が嬉しそうな表情をしていたわけだ」
「いけませんでした?」
 彼の言葉に、キラはこう問いかけた。
「まさか」
 そんなことは言わない、と言いながら彼はキラを抱き上げる。そして、そのまま自分の膝の上に座らせた。
「ステラも喜んでいたし、あの二人もそうだろう?」
 それに、カガリと、複雑な表情をしていたがアスランも喜んでいたはずだ、とフラガは付け加える。
「ムウさんは?」
 ふっと、キラはこう問いかけた。
「……俺は、甘いものはあまり得手じゃないんだがな」
 こう言いながら、彼は箱の中からチョコレートを一つつまみ上げた。そして、そのままそっと唇に含む。
 しかし、それを嚥下する様子は見せない。
 それどころかそのままキラの唇に自分のそれを重ねてきた。
 唇の隙間からキラの口腔内にチョコレートが滑り込んでくる。
「俺には、これで十分だって」
 かすかに唇と離すとフラガはこういった。それに、キラは言葉を返すことはできない。
「まぁ、もっと甘い者も知っているしな」
 そんなキラにフラガは再び顔を寄せてくる。キラも今度は自分から唇を重ねていった。



06.02.13 up



 と言うわけでキラのバレンタイン講座でしょうか。