迷子艦内に子供がいる。 それだけでも目が点になりそうだ。それでも、あの時に逃げ込んできたのか、と考えれば納得できる。 そう、その子供がよく見知った容姿をしていなければ、だ。 「キラ?」 記憶の中の、丁度であった頃の彼の容姿に似ている。 「何を言っているんだ! あいつは私たちと同じ年だろうが」 あんな小さな子供であるはずがない……と言うカガリの言葉はもっともなものだ。それでも、アスランにはどうしても目の前の子供が《キラ》だとしか思えないのだ。 だとしたら、どうして……とアスランが考えこんだときである。 「お兄ちゃん達」 いつの間にか二人のそばに寄ってきていた子供が、こう言いながらアスランの服の裾を引っ張った。 「キラのこと、知ってるの?」 小首をかしげながら、子供――キラがこう問いかけてくる。 「キラって名前なのか?」 凄い偶然もあるものだな、とカガリが感心していた。 「うん。キラ・ヤマトって言うの〜」 だが、それもこの一言で打ち壊される。 「キラ・ヤマトぉ〜〜」 まさか……と呟きながら、カガリは彼の顔をのぞき込んだ。 「うん。レイお兄ちゃんと一緒に来たの。ギルさんの所に行こうと思ったら、迷子になっちゃって」 にっこりと笑いながら、キラはさらにこう教えてくれる。その言葉が、ある意味、仮説を確証に変えてくれる。 「後、ラウさんというお兄さんがいないかな?」 それでもとりあえずこう聞いてみた。 「いるよ〜〜! でも、今は、別のお船に乗っているの」 後で連れて行ってもらうんだ……という言葉を聞けば、もう、疑いようがないだろう。 「何で、子供になっているんだ!」 「俺に聞くな!!」 それを一番知りたいのは自分だ、とアスランは思う。 「……お兄ちゃん……お姉ちゃん……」 そんなアスラン達の足元でキラが瞳を潤ませる。そんな彼の表情に弱いのは自分だけではないだろう。 「ともかく、議長の所に行こう……」 そして、きちんと説明してもらおうじゃないか。アスランは低い笑い声を漏らしながらこう呟く。 「そうだな」 どのみち、行かなければならないのだし……とカガリも頷いてみせる。 「と言うわけで、一緒に行こうね」 ギルさんの所に、と言いながら、アスランはキラの体を抱き上げた。 まずい…… アスランの腕の中にいるキラの姿を見た瞬間、ギルバートは内心でそう呟いていた。 レイやラウだけでも胃が痛い思いをしているのに、さらにアスランとカガリまでか、と思ったのだ。 だから、彼等をミネルバには乗せたくなかったのに……と心の中で付け加える。 「通路で迷子になっていましたので、保護させて頂きましたが……余計なお世話だったでしょうか」 綺麗な笑みを浮かべつつ言葉をつづるアスランの瞳だけがまったく笑っていない。 「キラ、迷子じゃなかったもん」 そんな彼に向かって、キラがこう主張している。 「わかっているよ。でもあのまま進んでいたら、MSデッキだったよ? デュランダル議長にお会いするなら、そっちじゃなくブリッジだっただろう?」 キラは昔から、少し方向音痴の毛があったからね……とアスランは言い返す。 「……お兄ちゃん、僕のことを知っているの?」 キラが小首をかしげつつ、問いかける。その表情はとても不思議そうだ。 「よく知っていたよ。でも、その話は後で、ね」 今は、別のことを聞いておかないと……とキラにだけは優しい笑みを向ける。だが、再びギルバートへと向けられた視線は棘を含みまくっていた。 「我々がまず聞きたいことは、ただ一つ。どうして、キラが子供に戻っているか、だ。私と双子である以上、同じ年齢でなければいけないのだぞ」 あの〜、もしもし? それは最重要機密だったのではないでしょうか。 ギルバートは心の中でこう呟く。だが、誰も気にするものはいない。 「あのね……ギルさんのお薬のせいなんだって。レイお兄ちゃんが言ってた」 にっこりと可愛らしい笑みを作ったキラがさらりと事実を口にしてくれた。 それはそうなのだが、もう少し他のいい方ができただろうに……とギルバートは思う。そうすれば、多少なりとも事態はましになったのではないか、とも。 「ほぉ」 「……そうなんですか?」 二人の視線が痛いと感じてしまう。 「アーサー」 本来であれば、味方をしてくれるはずのタリアすら、なにやら別のことに意識を向けているらしい。 自分は《プラント最高評議会議長》だったのではないだろうか、とギルバートは内心で涙を流す。それでも、自分を追いつめないでいてくれるならまだましかもしれない……と心の中で考えたときだ。 「レイを呼んでちょうだい。キラ君は、そろそろおねむのようだわ」 議長と代表は、その後でゆっくりとお話をしていただけばいいでしょうし……と最後の望みを彼女は見事に断ち切ってくれた。 「タリア!」 いくら何でも、それはないだろう……とギルバートは思う。 「あら。好意で申し上げておりますのよ。キラ君に、これから皆にいじめられる姿は見たくありませんでしょう?」 何なら、ラウに通信をつなげるが? と彼女は追い打ちをかけてくれる。 「それに、キラ君の世話をしている間なら、レイも参加できませんわよ」 半分ですみますわ……という言葉が、決して好意から出たものではないとギルバートにはわかっていた。そこまで恨まれていたのか……とも考えてしまう。 彼女には、最新鋭の艦と信頼しているレイを預けたのに、それでもまだ不満なのか……とも。そう言えば、付き合っていた頃はとんでもなく高価なものばかり買わされていたような気がしなくもない。 「僕、おねむじゃないです〜」 「でも、おなかはすいているだろう?」 いったい、どこにいたんだ……とギルバートは思ってしまう。それほどレイの登場は早すぎる。 「おやつ〜」 だが、キラには関係ないらしい。彼に向かって手を差し伸べながら嬉しそうな表情を作っている。 「食べておいで」 アスランもまた、キラの体をレイに渡しているし……その行動の裏に、これでじっくりとギルバートを絞り上げられる……と言う意志が隠されているような気がするのは錯覚だろうか。 どちらにしても、彼に逃げ道はなかった。 ほんの少しだけ、この艦に乗り込んだ事を後悔してしまうギルバートだった。 ちゃんちゃん
05.11.30 up 全国区あわせのペーパーです。やはり、議長いじめは楽しいですよ(苦笑) |