一応終戦後……会話の前の話ですね。気の迷い「……キラ……」 フリーダムから降りた瞬間、アスランが複雑な表情でこう声をかけてくる。 「何?」 まぁ、彼が何を言いたいのか、だいたい想像がつく。だからといって、それを即座に肯定するわけにはいかないだろう、とも思う。ひょっとしたら――その可能性はコンマ以下だろうが――別のことかもしれないし、とも思うし、とキラは心の中で呟く。 「それ……何だ?」 予想どおりというか何というか。アスランが言いたいのはやはりこれだったか……と苦笑を浮かべる。 「それって?」 しかし、しっかりとしらばっくれることにした。 「キラ……わかっていてやっているだろう、お前」 もちろん、そんなことアスランにはお見通しらしい。 「何のこと?」 それでも、素直に認めるのはどこかしゃくだ。そう思って逆にこう聞き返した。 「キラ!」 そうすれば、アスランの額に血管が浮かぶ。それでも、即座に怒鳴らなくなっただけましなのだろうか。そんなことすら考えてしまう。 「だから、お前に張り付いているのは、何なんだ!」 レイ・ザ・バレルだろう、と、その代わりと言うよう直球勝負で問いかけてきた。 「何って……拾ってきたというか連れてきたというか……取りあえず、頼まれちゃったし」 ミネルバの艦長さんから……とキラは口にする。 あの人もまた、自分の信条に殉じた、と言うべきなのだろう。一緒に連れ出そうとした瞬間、迷いもなく向けられた銃口からキラはそう感じた。 その代わり、彼を頼まれたのだ。 たとえ、長くは生きられないかもしれない。それでも、彼自身として生きて欲しい……と彼女たちは願ったのだろう。あるいは、少しでも彼の命を長らえる方法を探して欲しいと思ったのか。今となっては問いかけることもできない。 「……拾ってきた?」 この言葉は予想していなかったのか。アスランが呆然としてこう問いかけてくる。 「そう。あのまま放っておいたら、きっと死んでただろうし……僕としては、放っておけなかったから」 いけない? とキラは言い返す。 「……捨ててこい、と言いたい気分だよ、俺は」 そいつがどのようなことをしてきたのか、知らないわけじゃないだろう……とアスランはため息をつく。その中に、自分だけではなくメイリンをも殺そうとしたと言うことが含まれていることは間違いないだろう、とキラは判断をした。 「でも、それも全てデュランダル議長のためでしょう。なら、彼がいなくなった今、その心配はないと思うよ」 何よりも、デュランダルを撃つという方法で止めたのは彼なのだ。それは、デュランダルの告げた未来ではなく、キラ達の望む未来を彼が選択してくれたと言うことではないか。そう思う。 「捨てて来い……って、犬や猫じゃないんだし……」 その瞬間、抱きついていたレイの腕に力がこもった。 「第一、そんなことできると思う、僕が」 それに、とキラは視線をアスランの斜め下へとずらす。 「君だって、しっかりと拾ってきているじゃない」 あれって、デスティニーのパイロットだよね、とキラは口にした。その前はインパルスのパイロットだったんだろう? と付け加えればアスランは困ったように視線を彷徨わせる。 「彼に罪がないのもわかっているけどね……それならレイ君だって同じでしょう?」 だから、これ以上文句は聞かない、とキラは言い切った。 「それとも、そう命令した方がいい?」 階級だけで言えば自分の方が上なのだし……とキラは笑う。 「……キラ……」 「そういうのはいやでしょう?」 第一、生き残った人間を保護するのは自分たちの義務だ、と言えば彼はそれ以上何も言えないらしい。 「と言うことで、行こうか、レイ君」 だから、手の力を緩めてくれる? とキラは背後にいる彼に声をかけた。 「キラさん……」 「大丈夫。それに、君も仲間達に声をかけたいんじゃないの?」 ふわりと微笑めば、何故かレイは頬を染める。 「……キラ……やっぱり、そいつは危険だ!」 復活したアスランがこう叫ぶ。 しかし、キラはもうそれを無視することにした。でないと、厄介なことになると判断したのだ。 「……ラクスを味方にしておいた方が良さそうだね……」 いろいろな意味で、とキラは呟く。 「ともかく、着替えよう?」 それから考えてもいいよね、とレイに問いかければ彼は頷いて見せた。 「じゃ、移動しよう」 レイを背中に張り付かせたままキラは移動を開始する。 「キラ! やっぱり、それを捨ててこい!!」 そんな彼等を、アスランのこの声が追いかけてきた。 ちゃんちゃん
05.11.22 up アスランにレイを「捨ててこい」と言わせたかっただけです。この後、しばらくアスランはキラに声をかけてもらえませんでしたとさ(笑) |