彼いつから自分はここにいるのだろうか。それすらわからなくなっていた。 あの日、不意に自分の前に現れたのは死んだ、とばかり思っていた人物だった。 信じられなくて呆然としていた自分に彼は微笑みかけてくれた。 「坊主……」 その笑みが全く変わっていなくて涙があふれ出す。 そのまま、軽く開かれた腕の中に反射的に飛び込んだ。 そこで記憶がとぎれている。 次に目覚めたのはここだった。 そして彼は…… そこまで考えたときだ。 「いい子にしていたようだな」 こう口にしながら室内に入ってきた相手を見てキラは眉をよせる。その表情に気づいたのだろう。彼は口元に苦笑を浮かべた。 「まだ、慣れないか?」 この言葉にキラはますます眉をよせる。 「なれるわけがないでしょう?」 自分はネオと言う男は知らないのだから、とキラは付け加えた。 「俺は俺なんだけどねぇ」 微笑みに本のわずか苦いものを含ませながら彼は身にまとっている仮面に手をかけた。そのまま、無造作に脱ぎ捨てる。そうすればキラが知っている《蒼》が現れた。しかし、それがキラにさらなる悲しみを与える。 「どうした、坊主?」 こう口にしながら頭をなでてくれるしぐさも変わらないのに…… 「どうして……」 彼はこんな事をしているのだろうか。何度も口にしてきた疑問がキラの唇からこぼれ落ちる。 「決まってるだろう?」 フラガが優しくキラの頬を掌で包み込みながら言葉を唇に乗せる。 「キラを俺だけのものにしておくためだ。でないと、お前はすぐに他の誰かを気にしてしまうだろう?」 それが悪いとは言わないが……と付け加える彼の口調が微妙に変化する。 「ムウ、さん?」 「やっぱ、少しおもしろくないからな」 そのままフラガはキラのあごを持ち上げると固定した。 「一度、死にかけたからだろうな。開き直っただけだ」 こうしてキラを閉じ込めていることも、と彼はほほえむ。 「どんなに坊主が強くても、これのクルーを皆殺しになんて出来ないもんな」 そうである以上、キラがここから逃げ出す事は難しいだろう。ちがうか、と彼は囁いてくる。しかし、彼はキラに答えを求めているわけではないらしい。そのまま彼はキラの唇に自分のそれを重ねてきたのだ。 「んっ」 当然のようにフラガの舌がキラの唇の隙間から滑り込んでくる。 こんなところがずるいのだ、とキラは思う。 こうして彼は自分から反論の機会を奪ってしまうのだ。 当然のように滑り込んできた彼の手がキラの肌をまさぐり始める。 このぬくもりだけが、キラの中ですべてになってしまう。 もちろん、そのことを彼も知っているはず。 彼のぬくもりを失ったとキラか思っていたとき、どれほどの衝撃を受けたかなんて簡単に想像できるはずなのだ。そして、一度永遠に失ったと信じていたからこそ、二度と失えない、今度彼の存在をなくしてしまったら、自分は壊れてしまうだろう。キラがこう考えていることも彼は知っているはずなのだ。 だからこそ、彼はこうして自分に快感を強要するのだろう。何があっても彼から離れられなくなるように。 「ずるい……」 快感に浮かされた声でキラはこう呟く。 「でも、好きだろう? そんな人間だと知っていても、俺が」 違うのか、と囁きながら、フラガは低い笑いを漏らす。 「あっ、あぁっ!」 キラの甘い悲鳴が壁にはじけて消えた。 終
04.10.31 up いきなり思いついたネタです。フラガさんとネオが同一人物なのかどうか。まだわかりませんが……ともかく、こういう事で(^^; |