目の前のモニターに映し出されている文字を、アスランは忌々しそうににらみ付けている。
「……これは、どこから……ですか?」
 だが、いくらあらを探そうとしても、偽物とは思えない。これだけの短い文章だが、間違いなくキラのものだ、といいきれるのだ。
「キラが、知られたくない……と思っているのに、そのようなことを私たちに知られるようなことをされる、と思っていらっしゃいますか?」
 キラの実力であれば、発信地を秘匿することはもちろん、それを解析できないようにすることすら可能だ、とラクスは口にする。
「だからといって、何故!」
 自分たち相手にまでそのようなことをしなければいけないのか、とカガリは爆発した。
 そんな彼女の言葉にアスランも同意だと言っていい。
「キラが幸せだというのなら……この目で見ないうちは納得できない!」
 彼が『好きだ』という相手に関しても、だ。
 前の戦いの時にキラが恋をしていたという《フレイ・アルスター》は、他の者から聞き及んだ話では彼を利用するためだけに付き合っていたとしか思えない。そして、そのことが彼をどれだけ傷つけていたか。
 今の相手がそうではないと言い切れないだろう。
「あいつはお人好しでつけ込まれやすい性格だから……」
 キラを利用するためだけにそんな彼を誘惑して連れ出したのかもしれない、とアスランは付け加える。
「そうだな。そういう可能性もある」
 カガリもそんな彼の言葉にすぐに同意を見せた。
 だが、ラクスだけは違う。
 二人の言葉に盛大にため息をついたのだ。
「ラクス?」
 どうかしたのか、とカガリが問いかけている。
「だからこそ、キラはあなた方に直接連絡を取られなかったのですわ」
 それに対し、彼女はこう言い切った。
「ラクス!」
「キラはもう、あなた方に守られていなければならない赤子ではないのですよ」
 彼の選択を、どうして信用して上げられないのか! と彼女はきつい口調で問いかけてくる。
「だけど、私は……」
 それにカガリは何か反論をしようと口を開く。
「キラが選んだ方のあらを探して、二人を引き離そうとされるのではありませんか?」
 今だって、そうではないか……とラクスは冷静に指摘をする。その言葉に、カガリは悔しげに唇を噛む。
「そのようなお考えのままでいらっしゃるのでしたら、キラはここに帰っていらっしゃいませんわ」
 そんなことはない、とアスランは心の中で呟く。だが、それを口にしてもラクスは納得をしないだろう。
 ならば、キラを取り戻すためにはどうしたらいいのか。
 アスランは心の中でこう呟いていた。

 久々に袖を通したアカデミーの制服は少しきつくなったような気がする。
「……成長したのか」
 だとするならば、少し考えないといけないか……とレイはかすかに眉を寄せた。
 そんな彼を、キラは黙って見つめている。
「どうかしたのか?」
 視線を向ければキラは静かに首を横に振って見せた。
「……寮にはいるわけではない。今まで通り、夜には帰ってくる」
 だから、何も心配はいらない……とレイはそんな彼に微笑みかける。
「うん……」
 口ではこういうものの、それが彼の本心でないことはレイにもわかっていた。だからといって、今更復学を取りやめにするわけにはいかない。
 これからのことを考えれば、キラとギルバートの二人を守るために、しっかりとした技量を身につけておかなければならないのだ。
 そのためには、アカデミーに復学するのが一番だ、というのも事実。
「まぁ……ギルも仕事に行っているし、キラを一人にするのは不安だが」
 これも本心ではある。
「……何、それ……」
 一人でも大丈夫だ、とキラは即座に言い返してきた。
「キラの大丈夫は……今ひとつ信用ができない」
 そんな彼のそばに膝をつきながら笑いかける。その瞬間、縫い目がつれるのがわかった。やはり、復学前に新しい制服を用意してもらわなければいけないか、と心の中で呟く。
「そんなことを言われても……」
 キラはかすかに頬をふくらませながらこう言い返してきた。それは始めてみる表情かもしれない、とレイは心の中で呟く。
「また、ここで眠っていて体調を崩されるのは困るからな」
 心配で、授業に身が入らなくなる……と付け加えながら、そっとキラの肩に腕を回した。そのまま自分の方へと引き寄せる。
「そんなことをしたら、夜、一緒に眠れないだろう?」
 声を潜めながらこう囁いてやれば、即座にキラの頬に朱が走った。 「レイ!」
「キラは、俺が欲しくないのか?」
 俺はいつでもキラが欲しいが……と言うこのセリフで、レイはキラの非難を封じてしまう。
「……側にいて欲しい、とは思うけど……」
 諦めたようにキラはこう口にする。
「でも……このままじゃ、いられないん、だよね」
 自分も何かをしなければいけないのだろうか、とキラは呟く。
「貴方は、そのままでいい」
 ただ、自分だけを見てくれれば……というのは自分のワガママだ、ということもわかっている。それでも、そう思ってしまうのだ。だが、それは口に出さない。
「前の戦いの時、貴方は成長することを強要された。だから、今は少しぐらい怠惰になっていてもいい、と思う」
 静かに目を閉じて、その時まで自分の腕の中で微笑んでいてくれればいい、とレイは代わりに告げる。
「俺は……少しでも貴方に追いつきたいだけだ」
 ラウのようにとはいかないかもしれないが……とレイは付け加えた。
「どうして?」
 この言葉に、キラはレイの腕の中で小首をかしげる。
「キラ?」
「どうして、あの人の名前が出てくるの? レイはレイで……あの人じゃない」
 それに、とキラは体をすり寄せてきた。
「僕は、あの人のぬくもりも知らないのに……」
 ただ、一瞬すれ違っただけだ……と彼は付け加える。それでも、消えない影をラウはキラの心に刻みつけた。それは憎たらしいと思う。
 しかし、それがなければ自分たちは出会わなかったのかもしれない。
 だから……とは思う。
「わかっている」
 それにこれだけは間違いのない事実だ、と言うことがある。
「キラを抱きしめているのは、俺だ」
 キラは俺のものだから……とレイはその体をしっかりと抱きしめた。今はそれだけでいい、とも思う。
 レイはそのままゆっくりと顔を寄せていく。キラは瞳を閉じると、それを受け入れてくれた。