「……厄介なことになったな……」 目の前で繰り広げられた光景を見て困惑をしていたのはラウも同じだった。まさか、ヘリオポリスが崩壊するとは思わなかったのだ。 「こちらの攻撃のせいでしょうか」 アデスが呟くように口にした。 「いや、違うな」 ラウはきっぱりという。 「そうであれば、あのような崩壊の仕方はしない……おそらく、地球軍かオーブの上層部が、証拠を消そうと考えたのだろう」 自分たちがここでMSの開発を行っていた事実を、とラウは眉を寄せる。同時に、怒りすら感じてしまう。 その者達が行った行動は、どう考えても住民の安全を考えていないのは明白だ。それほどに奴らにとって他人の命は軽いものなのか、と。 同時に、キラは無事なのだろうか……と不安になる。 「……失礼していいか?」 その気持ちを察したのだろう。側にいたカナードが囁いてくる。 「状況を確認してくる。俺であれば、ここでもあちらに攻撃をされるはずがないからな」 ジャンク屋ギルドから、正式なIDを与えられている者は、このような場所にいても攻撃をされないことは条約で決められている。だから、状況を確認してきても大丈夫だろう、と彼は口にする。 「すまないが、頼む」 もっとも、とラウは思う。 状況次第では即座にこの場所から待避しなければいけないのではないか。 無駄な戦闘はしたくない、と心の中で呟いたときだ。 「ミゲル機! アンノンMSと交戦中!」 この報告が彼等の耳に届く。 「……隊長……」 「仕方がない……私もでよう」 ミゲル達であれば心配はいらない。 だが、まだアスラン達が帰還していないのだ。 そして、おそらく崩壊したヘリオポリスから射出された救命ポートも周囲にいるはず。 それらに被害を及ぼすわけにはいかないのだ。 だから、自分が出て行くしかないか……とラウは判断する。同時に、この混乱の中であればムウと直接連絡を取ることも可能かもしれない。 「……万が一のことを考えれば、それが良かろう」 オーブを敵に回すわけにはいかないのだから。この言葉に、アデスも頷き返す。 「後は頼む」 こう言い残すと、ラウはブリッジを飛び出した。 「どうして、キラが……」 奪取した機体――イージスを操りながら、アスランはこう呟く。 「なぁなぁ、キラって、誰?」 それを聞きつけたのだろう。ラスティが問いかけてくる。その声に力が感じられない。あるいは、出血が多くて意識が遠のき始めているのか。 「……キラは、俺の幼なじみだ……」 こんなたわいのない会話でも、彼の意識をつなぎ止めておくのであればかまわない。それに、ラスティであれば、キラのことを話しても大丈夫だろう、と思う。 「オーブ籍の第一世代だ……だから、あそこにいてもおかしくはなかったんだが……」 しかし、あの後どうなったのか。 地球軍の女と奪取し損なった機体へ避難したらしいことはわかっている。だから、あの崩壊で命を失ったとは考えられない。 だが、とアスランは心の中で呟く。 問題はその後だ。 地球軍の者と合流したとき、キラがどのような扱いを受けるか。 かすかな救いは、キラが《フィエル・チャイルド》と言うことだけだ。その立場が、キラを連中の憎悪から守ってくれるはず。後は、あの人と連絡が取れれば、マシなのだろう。 あの人の名前だけは、アスランは今でも耳にすることがある。その情報からすれば、キラ一人であれば守れるだろう、と言うものだ。 しかし、それは自分とキラが敵対する陣営に属してしまうと言うことにもなる。 「それって……前に話してくれた、戦争が終わったら、探し出したい相手?」 この言葉で、アスランは彼に話したことがあったのだ、と思い出す。 「あぁ」 「……そっか。ひょっとして……俺のせい?」 「じゃない。あの時は……仕方がなかったんだ」 自分に言い聞かせるように、アスランはこう呟く。だから、ラスティが気にすることはない、とも。 「それに、あいつはオーブの民間人だ。地球軍に保護されたとしても、きっと、すぐに解放される」 だから、心配はいらない。こう口にしながらも、アスランは自分がそう信じたいのだけなのだ、とわかっていた。 そう考えて、安心したいだけなのだと。 「……隊長?」 そんな気持ちを振り払うかのように、アスランは意識をモニターに向けた。その瞬間、視界の中を一機の白いMSが駆け抜けていくのがわかる。 「シグーだな……」 と言うことは、本格的に戦闘になったのだろうか。 なら、自分たちは……とアスランは悩む。 「ガモフに、戻るしかないだろうな……」 今の自分たちが戦場に出て役に立つとは思えない。それに、彼であれば、ナチュラルであろうと敵対しないものまで殺すとは考えられない、とアスランは心の中で呟く。 それでも、不安がないわけではない。 後ろ髪を引かれる思いで、アスランは帰還をした。 「やっぱ、出てきたか」 ラウ……とムウは苦笑を浮かべる。 だが、彼が出てくることはないのではないか、とも思う。いくら自分たちでもオーブの救命ポートには手を出さないぞ、とも思うのだ。 もっとも、それは口実だろう。 彼のねらいがにであるのかわかっていた。 「ナイスタイミングって事だな」 こちらも、あいつに話すことがあるし……とムウは笑う。 そのままメビウス・ゼロをシグーへと向けて発進させた。 |