数日後、ミネルバはアークエンジェルと合流を果たした。
 見知った顔を見て、キラは嬉しく思う。
 しかし、アスランはどこか苦虫をかみつぶしたかのような表情を作っている。
「どうしたのかな、アスラン……みんなに会えて、嬉しくないのかな?」
 カガリとラクスと三人で会話を交わしているアスランの表情を盗み見ながら、キラはこう呟く。
「気にしなくていいと思うぞ、少年」
「そうよ、キラ君」
 バルトフェルドとマリューが苦笑混じりにこう声をかけてくれた。
「こちらも大変だったからね。それに対するイヤミを言われているだけだと思うぞ」
 まぁ、お二人の気が済めば解放されるだろうね……と言われても、とキラは思う。実際、この光景に免疫がない面々は呆然としているのだ。
「……レイ……」
「下手なことは言わない方がいいぞ、シン。アスランさんの二の舞になりたくなければな」
 この二人――レイの方には確実に――はそれなりに耐性があるのか。どこか論点がずれているが、何とか交わしている。
「ともかく、フリーダムの修理もあちらの方々とマードックが率先してやっているわ。それが終わったら……行くのよね?」
 どこにとは彼女は聞かない。
 だが、聞かなくても彼女にはわかっているのだろう。
「えぇ……」
 キラが頷けば、彼女はさらに笑みを深めた。
「キラ君がその気なら、私たちはどこまでも付き合うわ。それが……貴方に対する贖罪になるとは思っていないけれど」
 それでも、自分なりにけじめをつけたいのだ……とマリューは口にする。そもそも、キラを自分勝手な理由で戦いに巻き込んだのは自分だから、とも彼女は付け加えた。
「……わかっています……ただ、どこまで自分にできるのか、と」
 こうして生きていて、努力をすることはできる。だが、自分一人では、何もできないに等しいのではないか。キラが呟くようにこう告げたときだ。
「だから、俺たちがここにいるんだろう?」
 いつの間に近づいてきていたのだろうか。アスランの声がキラの耳をくすぐる。同時に、そっと抱きしめられた。
「アスラン」
 その腕の強さだけで強くなれるような気がするのはどうしてなのだろうか。
「そうですわ、キラ」
 ふわりと、春風のような声が周囲を駆け抜けていく。
「思いを一つにする者達がいるのですもの。きっと、また、私たちは希望を実現させることができます」
 キラがいてくれるなら、とラクスは優しい微笑みを浮かべた。
「お前がここにいてくれるなら、どんなに辛い状況だってひっくり返せるさ」
 それどころか、あの世から戻ってくる連中すらいるくらいだしな……とカガリもまた、あの自信に満ちた笑みを浮かべる。
「そうだね。今回は、プラント最高評議会議長殿が手を貸してくださるし、あの厄介な男も、事態を混乱させる気はないようだからね」
 バルトフェルドのこの言葉に、キラだけではなく他の者達も思わず苦笑を浮かべてしまう。
「どうして……仲が悪いんだろうね。バルトフェルド隊長とクルーゼさんは」
 キラは小首をかしげながらこう呟く。
「さぁな……どちらにしても、お互いを認めているからだろうな」
 だからこそ、好き勝手なセリフを口にできるんだろう、とアスランは口にした。
「だといいね」
 どちらの人も好きだから、そんな人たちがいがみ合っている様子は見ているのが辛い、とキラは思う。
「……というわけで、出発かな?」
 いつまでもここにいるのは危険だろう、とバルトフェルドが話題を変えるように口にした。
「そうですね。ここはまだ、ザフトの支配圏内とは言えません。それに、ここでは、本国と連絡を取るのも難しいでしょう」
 せめて、無事に合流できたことぐらいは報告しないといけないのではないか。
「そうですね。きっと、ギルが心配していますよ」
 アスランの言葉にレイも頷いてみせる。
「最悪、地球に押しかけてくるかもしれませんね」
 いくらギルバートでも、そこでまでしないのではないか。キラはそう思うのだが、周囲の誰――その中にレイも含まれている――もそれを否定してくれない。
「第一、ここでは補給もままならないからね」
 作戦を立てるにも情報が足りないからね、と口にしながら、バルトフェルドはキラの判断を求めてくる。
「……行きましょう」
 自分たちがすべき事をするために。
 この言葉をともに、人々は動き始めた。

 戦場を、蒼い翼の《自由》が駆け抜ける。
 その先にあるのは、二つの種族が、お互いを認めながら生きていける世界。
 誰にも抑圧されない世界。
 それを作るために、彼等は戦場を駆け抜けていった。

 戦争が終わったのは、それからしばらくしてのことだった。

「……ようやく、ここの桜を見に来れたね……」
 月の桜の木の下で、キラは微笑んでみせる。
「そうだな……」
 そこは、かつて自分たちが別れた場所だ。その場所に、こうして二人で来ることができるとは思わなかった……とアスランは心の中で呟く。
「これからは、もう離れないですむな」
 一緒に、同じ時間を過ごしていこう。
 こう告げれば、キラは嬉しそうに微笑んで見せた。