その瞳とは違って、彼の肌は温かかった。
 あるいは、こちらの方が本当の《彼》なのかもしれない。
 そんな彼を、何かが変えてしまったのだろうか。
「……あの、戦争かな……」
 それとも、別の理由なのか。
 いくら考えてもシンにはわからない。考えてみれば、自分は彼のことを何も知らないのに等しいのだ。
 知っているのは、彼がフリーダムのパイロットだったと言うこと。そして、自分の命なんてどうでもいいと考えているらしいことだけ。
 いや、デュランダルの言葉から、彼が戦うことを望んでいないらしいこともわかっている。
 しかし、その理由は……と言われると自分は何も知らないのだ。
「どうでも、いいけど」
 そんなことは、重要じゃない、とシンは心の中で付け加える。
「大切なのは、あんたがここにいてくれることだけだ」
 俺の隣に……とシンは呟く。
「そして、俺が失ったぬくもりを、代わりに与えてくれればいい」
 少なくとも、そうすれば悪夢を見なくてもすむのだろうか。そんなことすら考えてしまう。
「……う……」
 その時だ。不意にキラが苦しげな声を上げた。
「キラ?」
 どうしたんだ、と思いながらシンは隣で眠っているはずのキラに視線を落とす。そうすれば、彼は苦しげに顔をゆがめている。
「魘されているのか?」
 でも何故……とシンは思う。自分たちの行為は、一応合意の上だったはずなのにてねtんどうして魘されるのだろう、彼は。そうは思うものの、彼が魘されていることは間違いはない。
『僕は……僕が犯した罪がどれだけ重いものかを知っている。それが、大切な人々の命を守るためだったとはいえ、たくさんの人の命を奪ってきたことは事実だからね』
 その時だ。不意に以前聞いたキラの言葉が脳裏に浮かんでくる。
 ひょっとして、彼もまた、自分と同じようにあの時のことを夢見ては、一人で耐えてきたのだろうか。
「キラ! 起きろ!」
 だとしたら、自分は彼の傷をさらにえぐってしまったのではないだろか。
 今更ながらに、その事実に、シンは今更ながらに気づいた。
 だからといって後悔するつもりはない。
 キラには、自分に償う義務があるからだ。
 多少、傷つけたってかまわないだろう。自分に言い聞かせるように、シンは心の中でこう呟いた。
 それでも、目の前で魘されている相手を放ってはおけない。
「起きろってば!」
 言葉とともに、シンはその細い肩に手を置く。そして、強引に揺り動かした。
「……ぁっ……」
 次の瞬間、キラの瞳が開く。しかし、まだ完全に意識が覚醒したわけではないらしい。焦点を結んでいない瞳が、それをシンに教えてくれる。
「キラ!」
 このままでは、目を見開いたまま悪夢を見続けることになってしまうのではないか。
 そんな状況がどれだけ辛いかを自分は知っている。
 いくら復讐でも、そんな状況にキラをおいておくのは心が痛む。というよりも、自分が見ていたくないだけか。
 こんな事を考えながら、シンはキラの頬を軽く叩いた。
「……ゆめ……」
 その衝撃で、キラの意識はようやく覚醒したらしい。涙に濡れた瞳を隠すことなくこう呟く。
「魘されていたからな……おかげで、俺まで目が覚めた」
 本当は違うのだが、それを彼に告げるわけにはいかない。シンはそう考えてきつい口調でこう告げる。
「そう……ごめんね……」
 キラは、どこか疲れ切ったような口調で言葉をつづった。
「別に。どうせ、起きなきゃないと思ってたし……」
 こう言い返しながら、シンはキラの上にのしかかる。
「シン?」
「でも、まだ時間はある。もう一回付き合えよ」
 そうすれば、キラはきっと夢も見ないで眠れるのではないか。自分が側を離れても、きっと、安心して眠れるだろう。
 どうして、こんな事を考えたのかわからない。
「……好きにすれば……いいよ……」
 そして、キラにもそんな自分の考えが伝わっているわけではないだろう。それでも、彼はこう言って体から力を抜く。
「好きにするさ」
 そんな彼の従順な態度はシンに満足感を与えてくれる。
 口元に笑みを浮かべると、シンは彼の唇に自分のそれを重ねた。



裏ページはありません(苦笑)