秘密の地図を描こう

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 キラが小さなため息をつく。
「どうかしたのかね?」
 それに気づいたラウがこう問いかけた。
「そろそろ、誰かに替わってもらいたいんですけど……」
 この役目、とキラは続ける。そんな彼の前には、オーブ軍から回されてきた書類が山のように積まれていた。
「意味がわからないまま、サインするわけにいかないですし」
 でも、軍人としての教育を受けていない自分には書類の意味がわからないから……と彼は続ける。
「ならば、教えてあげよう?」
 小さな笑いとともにラウは彼の顔をのぞき込んだ。
「……それもいいと思いますが……そうしたら、絶対に、やめさせてもらえないかな、と」
 カガリはもちろん、軍人達から……とキラはため息とともに続ける。
「あぁ、それはあり得るね」
 今ですら、キラを逃がさないようにと見張っているのに……と苦笑を返す。
「そうなんですか?」
 反射的に彼はそう言う。
 やはり、気づいていなかったか。心の中で呟く。
「そうでなければ、そこまで書類がたまらないと思うよ」
 それに、と続ける。
「最近は、どこに行っても誰かが護衛として付いてくるだろう?」
 自分やアークエンジェルのメンバーだけではなく、と言えばキラは納得したような表情を作った。
「あれは、僕がドジらないように気遣いじゃなかったんですね」
 てっきりそうだとばかり思っていた、と告げる彼に、何と言い返せばいいものか。
「……君らしいね」
 人の善意を信じようとする、と続ける。
「まぁ、君にはそのままでいて欲しいが」
 その方が皆、安心できるから……と言えばキラは首をひねって見せた。
「そうでしょうか」
「そうだよ」
 ともかく、とラウは体の位置を変える。
「ここにある分だけでも、説明をしよう。それだけで十分だと思うがね」
 キラであれば、と続けた。
「……お願いします」
 キラはすぐにそう言う。
「いい子だね、君は」
 言葉とともに彼の頭に手を置く。そして、さわり心地のいい髪をなでた。
「でも、少しはあの男のまねをしてみなさい。そうすれば、愛想を尽かしてもらえるかもしれないよ?」
 その感触を楽しみながら、こう言ってみる。
「ムウさんがまた、何かしたのですか?」
 そう言って彼は視線を向けてきた。
「とりあえずは、何もしていないよ」
 だから問題なのかもしれない。こう言い返せば、キラは苦笑を浮かべる。
「そう言うことですか」
 本気でカガリに殴られるかもしれない、とキラは付け加えた。
「まぁ、僕たちのことをまた忘れなければ、それでもいいですけど」
 もう少し仕事をしてくれるなら、これを押しつけられるのに、と彼は呟く。
「あぁ、それはいいかもしれないね」
 いろいろと、とラウはうなずく。
「後でバルトフェルド隊長も巻き込んで、あれこれと作戦を練ろう」
 他にもいろいろとやらなければいけないことがあるからね、と笑う。
「……それはそれで怖いような気がします」
 ムウは無事で地球に戻れるのだろうか、とキラは首をかしげる。
「とりあえず、ステラを泣かせるのは辞めてくださいね」
 かわいそうだから、と彼は言う。
「もちろんだよ」
 それに、ラウはしっかりとうなずいてみせる。
「と言うことで、まずはこれからかね?」
 そのまま手近にあった書類を取り上げると口にした。


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