秘密の地図を描こう
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月面を監視していた艦から報告が入った。それは事態を大きく変えるものだった。
「高エネルギー反応、だと?」
言葉とともにイザークがブリッジへと滑り込んでくる。
「月面の、地球軍の基地だな」
即座にディアッカはそう言い返す。
「何故、今まで気がつかなかった……」
「そこまで大きな基地じゃなかったから、ってところか?」
彼はため息混じりにそう告げる。
「あるいは、向こうの情報操作の結果か」
こちらの方が可能性があり得る、と彼は続けた。
「どちらにしろ、うちの情報局の怠慢だな」
せめて、念のために確認していれば気づいたのではないか。その意見にはイザークも同意だ。
「否定できんな、それは」
後で何か対策を考えるべきだろう。そのときにはニコルも巻き込むのがいいのではないか。
どちらにしろ、今回のことが終わってからだ。
「とりあえず、シホ達を先行させた。状況によっては、俺も出る」
かまわないな? とディアッカは問いかけてくる。
「わかっている」
確かに、この場は彼に任せるしかないだろう。だが、と心の中で付け加えたときだ。
「自分で出たいのはわかるんだけどな。お前は隊長だろう?」
我慢しろ、とそれ呼んだかのように彼は言ってくる。
「ディアッカ」
「何でわかった、と言うなよ? それなりにつきあい、長いんだからさ」
からから、と彼は笑う。この性格のおかげで、あまり深刻な雰囲気にならずにすんでいるのは事実だ。
「……不本意だが、そういうことにしておいてやる」
本当に、と思いながら言い返す。
「それと、アークエンジェルには連絡入れといたから」
たぶん、彼らも動くだろう。
「……ディアッカ?」
「あのデカ物をぶっ壊すには、フリーダムとミーティアの力を借りないとまずいからな」
本当はジャスティスもあればよかったのだろう。しかし、それは不可能だから、と彼は続ける。
「協力関係にあるんだから、問題はないだろう?」
別に、と彼は胸を張った。
「誰も悪いとは言わんが……せめて、事前に一声かけろ」
そうでなければ、他のものから『越権行為』と言われても仕方がないのではないか。
「……時間がなかったからな」
それに、イザークは睡眠をとっていただろう……と彼は続ける。
「……お前な」
「休憩を取れるときにきっちりとるのもパイロットの仕事、と言われたからな」
このセリフで彼はイザークに反論を封じた。
「誰に、だ?」
聞いてはいけないような気はするが、と思いながらも、ついついそう問いかけてしまう。
「フラガのおっさん」
前の戦いの時に、キラがさんざん言われていた。ディアッカはそう言って目を細める。
「今は、同じことをあの隊長が言っているかと思うと、不気味を通り越して笑えるけどな」
キラらしいと言えばキラらしいが、と言われて思わず首を縦に振ってしまう。
「と言うところで、俺はデッキに下りるから」
こっちはよろしく、と彼は立ち上がる。
「戻ってきたら、きっちりと話をつけるぞ」
ため息とともにこう言い返す。
「それと、アークエンジェルが来るなら、またあちらと話し合いをする必要があるな」
他にも確認しなければいけないことがあるだろう? と言外に付け加える。
「……あぁ……まぁ、それに関しては、な。あいつらの方が辛いだろうから、俺まで落ち込むわけにいかねぇし」
そのときになったら考えるわ、と言いながらエレベーターへと消えていく。
「本当に、ずいぶんと人がよくなったもんだ」
これもキラの影響だろうか。そう思いながらシートに腰を下ろす。
「詳しいデーターをくれ」
まずはこちらが先決だ。そう判断をしてこう命じた。